設問と講評を含めたwordファイルダウンロードはこちら
1. 出題の趣旨
① 事案の特殊性と日頃の学習における事案分析の重要性
憲法の事例問題というと、「法令や処分などの国家的規制によって特定個人の利益が侵害された場合に」、「憲法上の権利を援用して」、「当該規制の無効」または「当該規制の適用がないこと」を主張・立証するものが多いことは、周知のとおりである。そして、通常、基本書の類もこのような事案を想定しつつ、代表的な解釈学説を体系的に整理している。
ところが、実際に憲法論が主張される事案は、必ずしも、上に見たような形態をとっているとは限らない。そのような代表的な例として、行政に一定の裁量が認められることを前提として、その裁量権行使のあり方を問題にするパターンである(例えば、剣道実技拒否事件など参照)。そして、もうひとつの典型例が本問で出題したような団体内部における構成員の自由の保障の問題である(ほかにもパターンはあるので、だからこそ判例を事案も含めて丁寧に読んで分析しておくことが重要なのだ)。
本問では、学生のみなさんが通常、慣れ親しんでいる事案とは異なる事案を問うことによって、事案の構造の把握や事案類型の整理が大切だということに気付いてもらおうという点に第一の狙いがある。
② 先 例
(1) 赤い羽根共同募金事件(大阪高判平成19年8月24日判時1992号72頁)
さて、本問作成の際に直接参考にしたのは、赤い羽根共同募金事件である[1]。この事案は、地域自治会Yが、定期総会において自治会費を増額する決議をしたことにつき、会員であるXらが、Xらの思想及び良心の自由等を侵害し公序良俗に反する等と主張して、決議無効確認、債務不存在確認を求めて提訴した事案である。この事案については、下級審裁判例であり、かつ、地方自治百選などでは取り上げられているものの憲法百選などでは登載されていないことから、必ずしも(とくに学生の皆さんにとって)注目度が高くないが、重要な判例である。そこで、判旨を確認しておこう。
「募金及び寄付金は、その性格からして、本来これを受け取る団体等やその使途いかんを問わず、すべて任意に行われるべきものであり、何人もこれを強制されるべきものではない。上記一(2)のとおり、本件決議がなされる以前の被控訴人の会員の本件各会に対する募金及び寄付金に対する態度は一様ではなく、本件各会ごとに見ると、集金に協力した世帯は全世帯の半数程度以下であり、しかも本件各会ごとに募金及び寄付金を拠出するかどうか対応を異にする会員もいたことが窺われる。このように、従前募金及び寄付金の集金に協力しない会員も多く、本件各会ごとに態度を異にする会員がいる中で、班長や組長の集金の負担の解消を理由に、これを会費化して一律に協力を求めようとすること自体、被控訴人の団体の性格からして、様々な価値観を有する会員が存在することが予想されるのに、これを無視するものである上、募金及び寄付金の趣旨にも反するものといわざるを得ない。また、少額とはいえ、経済状態によっては、義務的な会費はともかく、募金及び寄付金には一切応じない、応じられない会員がいることも容易に想像することができるところである。学校後援会費については、会員の子弟が通学しているかどうかによって、協力の有無及び程度が当然異なるものと考えられる。募金及び寄付金に応じるかどうか、どのような団体等又は使途について応じるかは、各人の属性、社会的・経済的状況等を踏まえた思想、信条に大きく左右されるものであり、仮にこれを受ける団体等が公共的なものであっても、これに応じない会員がいることは当然考えられるから、会員の募金及び寄付金に対する態度、決定は十分尊重されなければならない。
したがって、そのような会員の態度、決定を十分尊重せず、募金及び寄付金の集金にあたり、その支払を事実上強制するような場合には、思想、信条の自由の侵害の問題が生じ得る。もっとも、思想、信条の自由について規定する憲法一九条は、私人間の問題に当然適用されるものとは解されないが、上記事実上の強制の態様等からして、これが社会的に許容される限度を超えるときには、思想、信条の自由を侵害するものとして、民法九〇条の公序良俗違反としてその効力を否定される場合があり得るというべきである。
本件決議は、本件各会に対する募金及び寄付金を一括して一律に会費として徴収し、その支払をしようとするものであるから、これが強制を伴うときは、会員に対し、募金及び寄付金に対する任意の意思決定の機会を奪うものとなる。なお、被控訴人は、本件各会に対する募金及び寄付金を会費の一部として集金しようとするものであるが、本件決議に至る経緯からして、これは名目上及び徴収の都合上のことにすぎず、実質は募金及び寄付金を徴収し、これをそのまま本件各会に支出することを予定していたものであって、被控訴人の本件各会に対する募金及び寄付金の支出と会員からの集金とは、その名目にかかわらず、その関係は直接的かつ具体的であるということができる。
次に、被控訴人は、前記第二の二(2)のとおり、強制加入団体ではないものの対象区域内の全世帯の約八八・六パーセント、九三九世帯が加入する地縁団体であり、その活動は、市等の公共機関からの配布物の配布、災害時等の協力、清掃、防犯、文化等の各種行事、集会所の提供等極めて広範囲に及んでおり、地域住民が日常生活を送る上において欠かせない存在であること、被控訴人が、平成一六年五月ころ、自治会未加入者に対しては、〔1〕甲南町からの配布物を配布しない、〔2〕災害、不幸などがあった場合、協力は一切しない、〔3〕今後新たに設置するごみ集積所やごみステーションを利用することはできないという対応をすることを三役会議で決定していることからすると、会員の脱退の自由は事実上制限されているものといわざるを得ない。
そして,被控訴人において、本件決議に基づき、募金及び寄付金を一律に会費として徴収するときは、これが会員の義務とされていることからして、これを納付しなければ強制的に履行させられたり、不納付を続ければ、被控訴人からの脱退を余儀なくされるおそれがあるというべきである。これに関し、(証拠省略)には、会費の不納付者に対しても、脱退を求めず、会員として取り扱っている旨の記載がある。しかし、上記証拠によっても、会費については、不納付扱いではなく保留扱いとしているのであって、いわば徴収の猶予をしているにすぎないから、現在このような扱いがなされているからといって、将来も(裁判終了後も)脱退を余儀なくされるおそれがないとはいえない。
そうすると、本件決議に基づく増額会費名目の募金及び寄付金の徴収は、募金及び寄付金に応じるか否か、どの団体等になすべきか等について、会員の任意の態度、決定を十分尊重すべきであるにもかかわらず、会員の生活上不可欠な存在である地縁団体により、会員の意思、決定とは関係なく一律に、事実上の強制をもってなされるものであり、その強制は社会的に許容される限度を超えるものというべきである。
したがって、このような内容を有する本件決議は、被控訴人の会員の思想、信条の自由を侵害するものであって、公序良俗に反し無効というべきである。」
このような裁判例があることを踏まえれば、本問については、容易に検討・解答ができるものと考えられる。
(2) 「でもでもだって、こまっちゃう。受験生だもん」
とはいえ、この裁判例がある意味マイナーなものであることは否定しがたく、(実務になってからそんなこと言っていると張り倒されそうだけれども)このレベルまでフォローして勉強しておかなくちゃいけないと言われると絶望的な気持ちになるであろうことも想像に難くない。
もちろん、私も、「赤い羽根共同募金事件を知らないなんて、勉強不足だ。たるんでる!判例集百回読んで出直してこい!」などというつもりはない。当該裁判例を知っていれば圧倒的に有利になることは間違いない[2]が、こんなところまで勉強している時間があるくらいなら、統治やその他の科目をきちんとこなすことの方が圧倒的に優先順位は高い。
だから、みなさんが、「そうはいっても、そんなん無理やん」というのであれば、「そらせやな」と返すしかない。それではどうするか。
そういう時には、大きく分けて二つの作業を並行的に進めてほしい。それは、(ア)関連しそうな先例をできる限り多く思い出すこと、(イ)事案の法的構造をあぶりだすことの二つである。この二つは、互いに関連しあっており、(ア)の作業によって(イ)が見えてくることもあれば、その逆もある。「二つの作業を並行的に」というのはそういう意味である。
(3) 関連判例
そこでまず、(ア)の作業をしてみよう。好みの問題もあるが、個人的には、(ア)→(イ)のほうが、スムーズに憲法上の論点の検討に移れることが多いように思われる。
さて、本問では、ある団体の意思決定によって、その構成員の基本権が侵害されているのではないか?という事案である。そのような事案だとすると、まず何よりも、この領域には、以下のような判例群が存在することが思い浮かぶだろう。すなわち、三井美唄労組事件(最大判昭和43年12月4日刑集22巻13号142頁【百選Ⅱ-149】)、八幡製鉄事件(最大判昭和45年6月24日民集24巻6号625頁【百選Ⅰ-9】)、国労広島地本事件(最判昭和50年11月28日民集29巻10号1698頁【百選Ⅱ-150】)南九州税理士会事件(最判平成8年3月19日民集50巻3号615頁【百選Ⅰ-39】)、群馬司法書士会事件(最判平成14年4月25日裁時1314号1頁【判プラ59】)などである。これらの判例は、(百選登載箇所がバラバラなことからもわかるように)一見相互に連関しているようには見えないかもしれないが、事案構造が実はよく似ており、各判例もそれぞれの判決を気にしながら判断を行っているところである。
本問の出題趣旨の2番目は、このような判例群を踏まえて、本件をどのように処理するかという点にある。採点実感でしばしば表明されることだが、憲法の事例問題では、学説の理解や適切な較量などの前に、先例を十分に理解しているかが問われる。これは、言い換えれば、先例の動向を関連判例まで含めて、適切に検討できない場合には、評価が下がらざるを得ないということでもある。
③ 本件事案の法的構造
以上を思い出しながら、本件事案の法的構造も分析してみよう。参考資料として条文もあげておけばよかったかもしれないが[3]、本問で問題となっているのは、地自法260条の2に定められている認可地縁団体である。そこで、まず、条文を確認しておこう。
地方自治法第二百六十条の二
1 町又は字の区域その他市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体(以下本条において「地縁による団体」という。)は、地域的な共同活動のための不動産又は不動産に関する権利等を保有するため市町村長の認可を受けたときは、その規約に定める目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。
2 前項の認可は、地縁による団体のうち次に掲げる要件に該当するものについて、その団体の代表者が総務省令で定めるところにより行う申請に基づいて行う。
一 その区域の住民相互の連絡、環境の整備、集会施設の維持管理等良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を行うことを目的とし、現にその活動を行つていると認められること。
二 その区域が、住民にとつて客観的に明らかなものとして定められていること。
三 その区域に住所を有するすべての個人は、構成員となることができるものとし、その相当数の者が現に構成員となつていること。
四 規約を定めていること。
3 規約には、次に掲げる事項が定められていなければならない。
一 目的
二 名称
三 区域
四 事務所の所在地
五 構成員の資格に関する事項
六 代表者に関する事項
七 会議に関する事項
八 資産に関する事項
4 第二項第二号の区域は、当該地縁による団体が相当の期間にわたつて存続している区域の現況によらなければならない。
5 市町村長は、地縁による団体が第二項各号に掲げる要件に該当していると認めるときは、第一項の認可をしなければならない。
6 第一項の認可は、当該認可を受けた地縁による団体を、公共団体その他の行政組織の一部とすることを意味するものと解釈してはならない。
7 第一項の認可を受けた地縁による団体は、正当な理由がない限り、その区域に住所を有する個人の加入を拒んではならない。
8 第一項の認可を受けた地縁による団体は、民主的な運営の下に、自主的に活動するものとし、構成員に対し不当な差別的取扱いをしてはならない。
(以下略)
以上の条文を前提とすると、いくつかの事柄が理解されよう。
(ⅰ)まず、6項では、認可地縁団体は行政組織の一部ではないとされている。すると、憲法の観点からは、認可地縁団体が公法人と解すべきか、私法人と解すべきかによって、直接適用の有無が変わりそうである。
(ⅱ)次に、規約がないことが気にはなるが、その点はさておくとしても、認可地縁団体は、その区域の住民相互の連絡、環境の整備、集会施設の維持管理等良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を行うことを目的とするものであるということである(2項1号)。団体は目的の範囲内でしか権利能力を持たないのであるから、本件決議の前提となる会費値上げと当番制実施の決議が以上の目的を超えるかが問題となる。
(ⅲ)第三に、法は、認可地縁団体に、「その区域に住所を有するすべての個人は、構成員となることができるもの」とすること(2項3号)、「団体は、正当な理由がない限り、その区域に住所を有する個人の加入を拒んではならない」こと(7項)、「民主的な運営の下に、自主的に活動するものとし、構成員に対し不当な差別的取扱いをしてはならない」こと(8項)を要求している。その趣旨は、おそらく、認可地縁団体がその区域に住所を有する個人の「相当数の者が現に構成員となっていること」を前提としていることと関連している。すなわち、認可地縁団体が、その区域に住む個人の生活にとって重要であって、かつ、その地域の相当数が加入しているとすると、そこでの加入拒否や差別的取り扱いは、個人にとって耐えがたい苦痛を生むことになる。つまり、これらの条文は、団体の性格に鑑みつつ、個人の利益と団体の利益との調和を図ったものとみることが可能である。
次に、本件決議についても考えておこう。あなたが望んでいるのは、あなたに町内会の退会を勧告する本件決議の無効の確認である。これによって退会の効果は直接には生じないかもしれないが、本決議が採択されたということは、他の町内会構成員によって、町内会を通じてあなたが受けられる利益を今後享受させないという意思が確認されたということでもある。事実上、退会させるものと評価できるだろう。
他方、本件決議の前提として、町内会側には、あなたに値上げ相当分の会費納入義務と当番を担う義務があるのに、あなたがそれらに反しているという評価がある。そうすると、値上げ相当分の会費納入義務や当番を担う義務の発生にかかわる決議が違法な場合には、決議の理由もないということになろう。
これらの諸点をどのように検討するかについてはともかく、少なくとも、以上のような事案の法的構造が解析できなければ、どこでどのように憲法論を展開するかも不明確にならざるを得ない。この点を意識してもらうことも本問出題の狙いである。
④ 論 点 以上の整理を踏まえると、本問で考察されるべき論点は、以下のようなものであることが理解されよう。
(1) 私人間効力
(2) 団体の行為と構成員の思想・信条の自由
これらの諸点について聞くのが、結局のところ、本問の出題の趣旨の核心である。以上諸点が適切に検討されていない答案は評価が下がらざるを得ない。
2. いくつかの論点にかんするコメント
① 総 論 以上の分析ができたら、実際にどのような論証を行うかを考えるステップに入る。その際に重要なのは、原告の利益を保護するために可能な法的主張を確認しておくということである。
先にも若干触れたが、本問で直接問題になっているのは、本件決議の無効である。本件決議を無効とするためには、本件決議内容が法令等や公序良俗に反するといった主張が考えられる。そのような主張を効果的に行うために、どのような憲法論を組み立てるかが問われるわけである。
② 私人間効力
他方、本問においては、町内会の法的性格が問題になるから、町内会による各決議に対して憲法の直接適用が可能かも検討されなければならないだろう。それによって、論証のスタイルも変わってくるはずである。
そこで、まず、この点について見通しをつけておこう。判例や地自法の規定からしても、認可地縁団体については、私法人とするのが基本的な考え方であろう。これを前提とする場合には、憲法論が展開しにくいと思われるかもしれないが、そうではない、ということは、上述の各判例が憲法判例として取り上げられていることからも理解されよう。
もっとも、直接適用を狙った方が、審査基準も上がるなど、有利な結論を導きやすくなるという判断もあるかもしれない[4]。気を付けてほしいのは、本問でこのような主張をする場合、判例や法の定めとは異なる主張をするわけであるから、その分だけ、丁寧な説明が求められるということである。少なくとも、一言くらいは、「あえてそうしているんだな」ということが感じられるフレーズを挿入したり、予備的な主張として間接適用説に基づくものも用意するなどしてほしい。
ご存知のように、私人間効力が争われた有力な判例は、三菱樹脂事件(最大判昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁【百選Ⅰ-10】)である。もちろん、ここでは、直接適用が否定されたわけであるが、学説上は、いわゆるステイト・アクションの法理を支持するものもないわけではない[5]。その場合には、認可地縁団体が(法の規定にもかかわらず)国家権力と同視できることが指摘されることになる。
③ 思想・信条の自由
つぎに、思想・信条の自由についても、具体的な論証の構成を考える前にある程度整理しておく方が有益だろう。というのも、「常日頃から、動物愛護の精神から、犬や猫に避妊手術を施すことには反対」というのが思想や良心といえるかはいささか疑問だからである。
このような個人の特定の考え方が憲法19条の保護範囲に入っているかという問題を考える際に、初学者がすぐに思いつくのが、謝罪広告事件と、いわゆる信仰説vs内心説といった学説上の対立である。もっとも、すぐにある程度、勉強を進めている人には、このような単純な理解は、近年の判例動向とも整合せず、要注意な議論だということは察しがつくだろう。
紙幅の関係上、ここで詳述することはできないが(かといって、残念ながらこの点をコンパクトに解説した基本書類もないのだが)、いくつかのポイントに触れておこう。
まず、憲法19条の保障範囲に関する議論は、その保障の効果とも連動しているという点である。これもよく知られているように、学説上、憲法19条による保障の効果は、いかなる法律の留保も認めず、絶対的なものだという理解に立つか、それとも、一定の場合に憲法19条が保障する各種利益に対する介入が正当化できるという理解に立つかが分かれている。
この点、学説上、多数なのは前者だと思われるが、前者の理解に立つ場合には、憲法19条の保障範囲をある程度絞る必要が出てくることになる。この点で、もっとも洗練されているといえるのが佐藤幸治説だと思われる(佐藤・218-224頁参照)。
他方で、判例は、この問題を意識しつつも、いわゆる国旗・国歌訴訟の一連の判決の中で、学説とは異なる理解を見せている。最判平成23年5月30日民集65巻4号1780頁で示された、いわゆる間接的制約論がそれであるが、とくにこの判決に付された竹内、須藤、千葉の各個別意見を参考にされたい。
④ 団体の内部自治と構成員の権利
すでに指摘したように、本件は団体の内部自治と構成員の権利の衝突が問題になっている。そこで、まず、この種の事案のリーディングケースである南九州税理士会事件を見ておこう。この事件では、「税理士会が政党など規正法上の政治団体に金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するためのものであっても、法四九条二項で定められた税理士会の目的の範囲外の行為であり、右寄付をするために会員から特別会費を徴収する旨の決議は無効であると解すべき」だとされたことがポイントである。すなわち、(ア)八幡製鉄事件で株式会社について認められていた政治献金が、(イ)税理士会の場合は、その目的の範囲外だとされた点が重要なわけである。 そして、その理屈は次のようなものであった。
「(一)民法上の法人は、法令の規定に従い定款又は寄付行為で定められた目的の範囲内において権利を有し、義務を負う(民法四三条)。この理は、会社についても基本的に妥当するが、会社における目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行する上に直接又は間接に必要な行為であればすべてこれに包含され……、さらには、会社が政党に政治資金を寄付することも、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためにされたものと認められる限りにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為とするに妨げないとされる……」。
「(二)しかしながら,税理士会は、会社とはその法的性格を異にする法人であって、その目的の範囲については会社と同一に論ずることはできない。
税理士は、国税局の管轄区域ごとに一つの税理士会を設立すべきことが義務付けられ(法四九条一項)、税理士会は法人とされる(同条三項)。また、全国の税理士会は、日税連を設立しなければならず、日税連は法人とされ、各税理士会は、当然に日税連の会員となる(法四九条の一四第一、第三、四項)。
税理士会の目的は、会則の定めをまたず、あらかじめ、法において直接具体的に定められている。すなわち、法四九条二項において、税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とするとされ(法四九条の二第二項では税理士会の目的は会則の必要的記載事項ともされていない。)、法四九条の一二第一項においては、税理士会は、税務行政その他国税若しくは地方税又は税理士に関する制度について、権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができるとされている。
また、税理士会は、総会の決議並びに役員の就任及び退任を大蔵大臣に報告しなければならず(法四九条の一一)、大蔵大臣は、税理士会の総会の決議又は役員の行為が法令又はその税理士会の会則に違反し、その他公益を害するときは、総会の決議についてはこれを取り消すべきことを命じ、役員についてはこれを解任すべきことを命ずることができ(法四九条の一八)、税理士会の適正な運営を確保するため必要があるときは、税理士会から報告を徴し、その行う業務について勧告し、又は当該職員をして税理士会の業務の状況若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる(法四九条の一九第一項)とされている。
さらに、税理士会は、税理士の入会が間接的に強制されるいわゆる強制加入団体であり、法に別段の定めがある場合を除く外、税理士であって、かつ、税理士会に入会している者でなければ税理士業務を行ってはならないとされている(法五二条)。
(三)以上のとおり、税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的として、法が、あらかじめ、税理士にその設立を義務付け、その結果設立されたもので、その決議や役員の行為が法令や会則に反したりすることがないように、大蔵大臣の前記のような監督に服する法人である。また、税理士会は、強制加入団体であって、その会員には、実質的には脱退の自由が保障されていない」。
「税理士会は、以上のように、会社とはその法的性格を異にする法人であり、その目的の範囲についても、これを会社のように広範なものと解するならば、法の要請する公的な目的の達成を阻害して法の趣旨を没却する結果となることが明らかである。
(四)そして、税理士会が前記のとおり強制加入の団体であり、その会員である税理士に実質的には脱退の自由が保障されていないことからすると、その目的の範囲を判断するに当たっては、会員の思想・信条の自由との関係で、次のような考慮が必要である。
税理士会は、法人として、法及び会則所定の方式による多数決原理により決定された団体の意思に基づいて活動し、その構成員である会員は、これに従い協力する義務を負い、その一つとして会則に従って税理士会の経済的基礎を成す会費を納入する義務を負う。しかし、法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、様々の思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されている。したがって、税理士会が右の方式により決定した意思に基づいてする活動にも、そのために会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がある。
特に、政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきである。なぜなら、政党など規正法上の政治団体は、政治上の主義若しくは施策の推進、特定の公職の候補者の推薦等のため、金員の寄付を含む広範囲な政治活動をすることが当然に予定された政治団体であり(規正法三条等)、これらの団体に金員の寄付をすることは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につながる問題だからである。
法は、四九条の一二第一項の規定において、税理士会が、税務行政や税理士の制度等について権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができるとしているが、政党など規正法上の政治団体への金員の寄付を権限のある官公署に対する建議や答申と同視することはできない。
(五)そうすると、前記のような公的な性格を有する税理士会が、このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないというべきであり(最高裁昭和四八年(オ)第四九九号同五〇年一一月二八日第三小法廷判決・民集二九巻一〇号一六九八頁参照)、税理士会がそのような活動をすることは、法の全く予定していないところである。税理士会が政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、法四九条二項所定の税理士会の目的の範囲外の行為といわざるを得ない。
2 以上の判断に照らして本件をみると、本件決議は、被上告人が規正法上の政治団体である南九各県税政へ金員を寄付するために、上告人を含む会員から特別会費として五〇〇〇円を徴収する旨の決議であり、被上告人の目的の範囲外の行為を目的とするものとして無効であると解するほかはない。」
もうひとつの重要判例として、群馬司法書士会事件も見ておこう。
「原審の適法に確定したところによれば,本件拠出金は,被災した兵庫県司法書士会及び同会所属の司法書士の個人的ないし物理的被害に対する直接的な金銭補てん又は見舞金という趣旨のものではなく,被災者の相談活動等を行う同司法書士会ないしこれに従事する司法書士への経済的支援を通じて司法書士の業務の円滑な遂行による公的機能の回復に資することを目的とする趣旨のものであったというのである。
司法書士会は,司法書士の品位を保持し,その業務の改善進歩を図るため,会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とするものであるが(司法書士法14条2項),その目的を遂行する上で直接又は間接に必要な範囲で,他の司法書士会との間で業務その他について提携,協力,援助等をすることもその活動範囲に含まれるというべきである。そして,3000万円という本件拠出金の額については,それがやや多額にすぎるのではないかという見方があり得るとしても,阪神・淡路大震災が甚大な被害を生じさせた大災害であり,早急な支援を行う必要があったことなどの事情を考慮すると,その金額の大きさをもって直ちに本件拠出金の寄付が被上告人の目的の範囲を逸脱するものとまでいうことはできない。したがって,兵庫県司法書士会に本件拠出金を寄付することは,被上告人の権利能力の範囲内にあるというべきである。
そうすると,被上告人は,本件拠出金の調達方法についても,それが公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がある場合を除き,多数決原理に基づき自ら決定することができるものというべきである。これを本件についてみると,被上告人がいわゆる強制加入団体であること(同法19条)を考慮しても,本件負担金の徴収は,会員の政治的又は宗教的立場や思想信条の自由を害するものではなく,また,本件負担金の額も,登記申請事件1件につき,その平均報酬約2万1000円の0.2%強に当たる50円であり,これを3年間の範囲で徴収するというものであって,会員に社会通念上過大な負担を課するものではないのであるから,本件負担金の徴収について,公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情があるとは認められない。したがって,本件決議の効力は被上告人の会員である上告人らに対して及ぶものというべきである。」
さらに、国労広島地本事件も確認しよう。
「思うに、労働組合の組合員は、組合の構成員として留まる限り、組合が正規の手続に従つて決定した活動に参加し、また、組合の活動を妨害するような行為を避止する義務を負うとともに、右活動の経済的基礎をなす組合費を納付する義務を負うものであるが、これらの義務(以下「協力義務」という。)は、もとより無制限のものではない。労働組合は、労働者の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的とする団体であつて、組合員はかかる目的のための活動に参加する者としてこれに加入するのであるから、その協力義務も当然に右目的達成のために必要な団体活動の範囲に限られる。しかし、いうまでもなく、労働組合の活動は、必ずしも対使用者との関係において有利な労働条件を獲得することのみに限定されるものではない。労働組合は、歴史的には、使用者と労働者との間の雇用関係における労働者側の取引力の強化のために結成され、かかるものとして法認されてきた団体ではあるけれども、その活動は、決して固定的ではなく、社会の変化とそのなかにおける労働組合の意義や機能の変化に伴つて流動発展するものであり、今日においては、その活動の範囲が本来の経済的活動の域を超えて政治的活動、社会的活動、文化的活動など広く組合員の生活利益の擁護と向上に直接間接に関係する事項にも及び、しかも更に拡大の傾向を示しているのである。このような労働組合の活動の拡大は、そこにそれだけの社会的必然性を有するものであるから、これに対して法律が特段の制限や規制の措置をとらない限り、これらの活動そのものをもつて直ちに労働組合の目的の範囲外であるとし、あるいは労働組合が本来行うことのできない行為であるとすることはできない。
しかし、このように労働組合の活動の範囲が広く、かつ弾力的であるとしても、そのことから、労働組合がその目的の範囲内においてするすべての活動につき当然かつ一様に組合員に対して統制力を及ぼし、組合員の協力を強制することができるものと速断することはできない。労働組合の活動が組合員の一般的要請にこたえて拡大されるものであり,組合員としてもある程度まではこれを予想して組合に加入するのであるから、組合からの脱退の自由が確保されている限り、たとえ個々の場合に組合の決定した活動に反対の組合員であつても、原則的にはこれに対する協力義務を免れないというべきであるが、労働組合の活動が前記のように多様化するにつれて、組合による統制の範囲も拡大し、組合員が一個の市民又は人間として有する自由や権利と矛盾衝突する場合が増大し、しかも今日の社会的条件のもとでは、組合に加入していることが労働者にとつて重要な利益で、組合脱退の自由も事実上大きな制約を受けていることを考えると、労働組合の活動として許されたものであるというだけで、そのことから直ちにこれに対する組合員の協力義務を無条件で肯定することは、相当でないというべきである。それゆえ、この点に関して格別の立法上の規制が加えられていない場合でも、問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である。」
以上の諸判例をみればすぐに理解できるように、この種のタイプの問題では、(ア)団体の行為がその目的等に鑑みて、許容される種類のものか、(イ)そのうえで、その活動が構成員の利益を制約する場合に、それが許されるかという二点が争われることになる。
そして、南九州税理士会では、(ア)の点につき、団体の目的を広く把握する八幡製鉄事件や国労広島地本事件と異なり、強制加入性を重視して、狭く理解して、政治献金を目的外の行為としたのであった。これに対して、国労広島地本事件では、目的を広く理解したうえで、それによって生じる組合員構成員の利益の調和を図ろうという(イ)の点に比重を置いた議論がみられる。そして、群馬司法書士会事件もこれに近い。
しばしば、前者のようなタイプを「一段階理論」、後者のようなタイプを「二段階理論」などと呼ぶが、いずれにせよ、解答の際は、これらをどう処理するのかが求められる。
このように、本問のような団体の自治権と構成員の基本権が対立する場面では、保障範囲→介入→正当化という論証パターンでは処理できないということを肝に銘じておいてほしい。
[1] なお、宍戸常寿編『憲法演習ノート』(弘文堂、2015年)58-59頁〔宍戸常寿執筆〕にも類題が用意されている(ちなみに、みなさんに出題したものは私のオリジナルで、何年か前の近畿大学法学部アドバンスト憲法Bの期末試験問題です)。
[2] ちなみに、そういう裁判例はいくつかある。私の授業受けた人の中には、「ああ、あれねえ」と気が付くのもいるはず(だと願っている…)。
[3] いうまでもなく、地方自治法は、司法試験用法文として登載されている。
[4] この点、当事者主張反論型の問題であれば、原告側の立論として直接適用を、被告側の反論として無適用を主張したうえで、間接適用で私見を述べるという方法も答案作成上の戦略としてはありうるだろう。この点について、宍戸・前掲注1・54-58頁を参照。ただ、そうではないのに、解答が書きやすくなるからという理由だけで、直接適用をゴリ押しするのはいただけない。
[5] この点についても、宍戸・前掲注1・47-48頁参照。