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三井物産企業法務セミナー

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当日配布資料

○その他、合格者から寄せられた体験談を掲載しますので参考にしてください。

不合格の経験を乗り超えて知った合格のために必要な4つのこと
司法試験合格体験談

木曜オフィスアワー(民法) 解説 2015

2015年度番外編 民法

配点表

設問1

小問1 MのAに対する母屋の明渡し請求の可否(合計25点)

1-1 法的根拠(訴訟物)

使用貸借権に基づく母屋の明渡請求権 1個 5点・・・・①

1-2 法的根拠が成り立つ理由(上記訴訟物を選択した理由)

1-2-1 共有持分権に基づいて明渡請求をしても、Aも共有者の一人であり、249条よればAも自己の持分権に基づいて共有物全体を利用する権限を有することから、占有権原の抗弁が主張されることになり、Mの明渡請求権は認められない結果となることが理解できているか。10点・・・・②

1-2-2 使用貸借契約の成立をどのように基礎づけるか  10点・・・・③

Mは亡Kの妻であり、母屋についてKの占有補助者であることから、最判平成8・12・17民集50巻10号2778頁によって、始期(相続開始時)付き終期(遺産分割時)付きの使用貸借契約を認められることが指摘できているか。

 

小問2 (合計35点)

2-1 訴訟物 共有持分権にもとづく母屋の明渡請求権 5点・・・・・④

2-2  Cからの反論とその評価

占有権原の抗弁 249条 10点・・・・・・・・・・・・・・・⑤

*共有物の持分の価格が過半数をこえる者(多数持分権者)であっても、共有物を単独で占有する他の共有者に対し、当然には、その占有する共有物の明渡しを請求することができない理由がのべられているか。

2-3  Bの下線部の主張について

2-3-1 *BCが母屋の利用方法について変更し、「母屋をCに設計事務所として利用させる」と決定したことの法的意味について論じられているか。10点・・⑥

252条に基づく共有物の利用方法の決定なのか

251条に基づく共有物の現状を変更する行為なのか(被相続人の死亡前からAが居住していたわけではない点について言及せずに議論を展開している場合には減点)。

2-3-2  Bの言い分中の下線部分の攻撃防御方法の位置づけ,主張の当否

10点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・⑦

以下のいずれでもよい

(1)252条に基づく利用方法の決定

*6分の5の多数持分権者による決定によってCの単独利用を認めていること

*再抗弁として位置づけられること,その理由(252条と249条の関係について論じられているか)

(2)251条に基づく変更行為

*変更行為にあたるとする場合には、Cに単独利用を容認するためには、全員一致でなければならないので、有効な攻撃防御方法とならないことが言及されていること

 

設問2(合計30点)

3-1 訴訟物

共有持分権にもとづく持分移転登記抹消登記請求権 1個 5点・・⑧

3-2 上記の訴訟物を選択する理由  15点・・・・・・・・・・・・・⑨

*原告の共有持分権にもとづいて他の持分権者の持分移転登記について抹消登記請求権ができるのか。  249条構成、保存行為構成、不可分債権類推構成いずれでもよいが、不可分債権類推構成は難しいのではないか。

3-3 本問への当てはめ 10点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・⑩

*上記の構成にもとづいて、本件の場合について検討すること。

249条構成:持分移転登記が共有物に対する侵害になることを説明できているか。

保存行為構成:BがD名義の持分権移転登記を抹消することが、他の共有者ないし共有者全員の利益になること、ないしは、不利益とならないことが説明できているか。

 

4.裁量点

4-1 裁量点A  全体の論旨の展開・論理的な整合性  (10点・・⑪)

*全員について採点 A+は9~、Aは8、B+は7、Bは6、Cは5、D(不可)は0点

4-2裁量点B:そのほか加点できる事由があれば、考慮(10点の限度・・⑫)

*加点できる事由があるもののみ

5. 合計点 (満点100点+裁量点B・・⑬)

 

参考 相続財産の帰属

 

被相続人の相続開始時の財産であり、一般には「遺産」と同義であるが、民法典では「遺産」は分割の場合にもっぱら使われている。遺産分割の対象となるのは経済的価値のある積極財産だけであるから、その点では遺産分割の対象である遺産と積極財産(権利)だけでなく、一切の消極的財産(義務)を含む相続財産とは異なる。権利・義務として具体的に発生するにいたっていない財産上の法律関係ないし法的地位(ex.申し込みを受けた地位、善意者・悪意者の地位)も承継することに注意すること。

相続人が数人あるとき、遺産分割が行われるまでの相続財産は共有とされる(遺産共有 898条)。各相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する(899条)。遺言によって被相続人による相続分の指定がある場合(902条)、あるいは、被相続人によって第三者に指定を委託している場合には、これに従うことになるが、そのようなものはない場合には、法律の規定によって、各相続人が遺産の全体のうちどれだけの割合(900条。法定相続分、本来的相続分)を相続することになるかが定められている。本件では、母Mは2分の1、3人の子ABCは各6分の1となる。

 

1)不動産(土地甲乙丙および母屋)の帰属

土地甲乙丙および母屋の建物は、いずれも、上記の割合でMABCの共有となる。(共同)相続を原因として不動産を登記するときは、上記割合での共有登記をすることになる。

この(共同)相続登記は、戸籍により各相続人がそれぞれ取得する法定相続分を登記所に証明することによって相続人のだれであっても一人でできる。登記原因は「相続」、登記原因の日付は相続開始時となる。申請者は自分だけのために自己の持分取得のみを登記することはできない(不登59条4号参照)。単独申請で(共同)相続登記ができるのは(不登63条2項)、登記義務者である被相続人が死亡していること、上記登記申請が現状を維持し、また、共同相続人全員にとって利益があることから保存行為にあたると解されているからである。

しかし、この関係は遺産分割(協議ないし審判 907条)が行われるまでの間であり、法定相続分で相続登記した後に、遺産分割により、個々の不動産(遺産)の取得者が決定されたときには、「○年○月○日付遺産分割」を原因として、取得しなかった相続人の共有持分を、その取得者へ、共有持分移転登記することとなるから、登記義務者である取得者以外の相続人と登記権利者である取得者である相続人によって共同申請しなければならない(登記原因証明情報として遺産分割協議書、および、それぞれの印鑑(実印)と印鑑証明書が必要)。

共同相続登記をしても、遺産分割により当該不動産を取得した者は、他の持分権者の共有持分について移転登記を経由しなければならないことから、遺産分割前に共同相続登記を相続人自身が行うことは実務的には多くはない。被相続人の死亡によって相続人の共有になっているが、被相続人の名義になっている不動産について、相続人の債権者が、当該不動産に対して強制執行や担保執行を行う準備として、相続人に代位して共同相続登記をするような場合が多い(民事執行規則23条1号参照)。

なお、共同相続登記を経由しないまま遺産分割の協議が整い、当該不動産に対して相続人が単独所有ないし共有する場合には、遺産分割協議書を添付情報として相続人が単独申請することができる(不登63条2項)。これは、遺産分割の効果について遡及効が認められており相続開始の時点まで遡って遺産分割の効果が発生するから(909条)、被相続人から当該取得者に直接の権利移転があったものと解されるからである。この場合には、登記原因は「相続」ということになり、相続開始時が登記原因の日付となる。

したがって、登記原因が「相続」、相続人が共有している場合には、遺産分割前で遺産共有の状態にあり共同相続登記がなされているのか、遺産分割の結果、相続人の共有となっているのかは、登記からは識別できにくいことになる。

2)S銀行・U銀行への預金債権の帰属

ⅰ)最判昭和29・4・8民集8巻4号819頁によれば、相続人が数人ある場合において、相続財産中に可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解されている。

なぜ、分割債権となるのか。理論的には、相続財産を構成する債権についても898条により準共有となり、264条の特則である427条以下が適用されることになる。普通預金は、期限の定めのない当座性預金であり、個々の預入金が入金記帳された時点で、これを組み込んだ新たな1個の預金債権が成立するものと解さざるをえないことになるが、可分債権であり、このような普通預金債権の特色を考慮すると、相続分の割合に応じて当然に分割承継されるものと解される。なお、相続法には弁済をした債務者を保護するための規定がないが、相続財産を構成する債権に427条以下が適用されることから、債権の準占有者に対する弁済の規定を適用して、債務者を保護している

したがって、相続財産を構成している被相続人死亡前に発生した預金債権については、いずれも金銭債権であり可分債権であることから、相続分に応じて相続人に分割帰属することとなる。本問では、KはS銀行に1200万円とU銀行に3000万円の預金債権があるが、S銀行に対する預金債権(1200万円)については、妻600万円の預金債権が、子ABCについてはそれぞれ200万円の預金債権が帰属することになり、U銀行に対する預金債権(3000万円)については、妻1500万円の預金債権が、子ABCについてはそれぞれ500万円の預金債権が帰属することになる。

可分債権はこのように相続開始時点で共同相続人に分割帰属することから、本来遺産分割を観念する必要はないが、実務上は可分債権であっても、支払いがなされていない限り相続人全員の同意のもとに遺産分割の対象としていることが通例である。特に預貯金債権は他の財産によって発生するでこぼこを調整するために使われる(912条は遺産合有説の根拠条文の一つとなっているが、遺産共有説に立つ場合には、債権についても遺産分割の対象となる場合があり、その場合に適用されるのが912条の規定と説明することになる)。

なお、現金は当然には分割帰属しないというのが判例である。最判平成4・4・10判時1421号77頁によれば、相続人は、遺産分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払いを求めることはできない。金銭の所有権は、特段の事情がないかぎり、通常は占有者と一致するものと解されているが、相続により金銭が当然分割帰属すると解すると、遺産分割協議について不動産などの分割結果の不均衡を調整する方法がなくなってしまう。そこで、相続人相互間の問題には、「特段の事情」があるとして、金銭は共同相続人の共有と解すべきであると解されている。

ⅱ)ところで、S銀行の預金口座は、賃料の受け取りのために開設された口座であり、被相続人の死亡後もこの口座に賃料が振り込まれている。被相続人の死亡後の賃料債権の帰属について、どのような考え方にもとづいて、どのように相続人に帰属するのかが問題となる。

乙地については、亡父が花井土木に賃貸しており、亡父の死亡によって、賃貸人の地位を相続人全員が承継する。相続開始から遺産分割までの賃料は誰に帰属すると解すべきか。

民法第909条が、遺産分割の効力は相続開始の時に遡って効力を生ずると規定しているから、遺産分割協議により取得者が確定したときは、相続開始時からのその取得者が土地を所有してきたこととなる。元物の所有者に果実は帰属するから(89条、189条、190条参照)、従来、相続開始後、遺産分割までの間の賃料の帰属についても、遺産である不動産に準じる考え方も存在した。

しかし、最高裁平成17・9・8民集59巻7号1931頁は、「相続開始から遺産分割までの間に共同相続にかかる不動産から生ずる賃料債権は、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解し、その帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない」と判示した。

909条本文は、遺産分割の遡及効を規定しているが、各相続人が、遺産分割によって取得した財産を、相続開始の時に被相続人から直接承継したものとして取り扱うことによって、相続人を保護することを目的としている。ただ、相続開始後から遺産分割までの間、共同相続人が共有している状態は短期間とは限らない。それにもかかわらず、遺産分割の結果、被相続人の死亡時=相続開始時までさかのぼって、各相続人は遺産分割に定められたとおりに遺産を所有または共有していたとすると、取引の安全が害されることになる。このため、909条但書は、遺産分割の遡及効を制限している。

上記判決では、遺産に属する不動産は、相続開始後から遺産分割までの間は共同相続人の共有であり(898条)、その間に発生した賃料債権については、共同相続人に法定相続分の割合に従って分割帰属するという理解を前提にしている。

このような理解は、①民法909条は遺産分割と相続開始との間に間隙を発生させないための擬制であり、果実を遺産と同様に考えるべき必要はないこと、②遺産である賃貸不動産から生ずる賃料債権は遺産そのものではなく、遺産とは別個の財産であること、③賃料を生み出す遺産の取得者には相続時に存在した遺産以上のものを取得させる必要はないこと、④遺産分割によって不動産が相続開始の時点から、遺産相続した相続人に被相続人から取得したとする構成をとるとしても、遺産分割までの間、当該不動産が共同相続人の共有であるという事態を無視することができないこと(かりに、遺産分割によって、遺産を構成している不動産が共同相続人の一人の単独所有となって場合に、遺産分割までに発生した賃料が、上記相続人に帰属するとした場合に、賃借人の賃料の弁済、すでに遺産分割までの賃料を共同相続人間で費消してしまった後始末を想起せよ)などを理由とする。

遺産分割の効力をめぐっては、宣言主義(各相続人は直接被相続人から取得したことになり、遺産共有の存在は存在しなかったものとして取り扱うとする考え方)と移転主義(遺産は相続の開始によってまず共有状態に入り、分割によってはじめて各相続人の単独所有に移行するという考え方)の対立があるが、上記判決は、後者の考え方と整合的な理解といえる。

結局、上記判決によれば、本問では、被相続人の死亡後、遺産分割前の240万円の賃料についても、妻Mに120万円、子ABCについては、40万円ずつ帰属することになる。

 

*代償財産について共同相続人全員の合意があれば遺産分割の対象になるとしている (最判昭和54・2・22金判570号19頁)点に注意。

*債権が預金債権である場合には、判例によれば分割帰属するはずであるが、金融機関は払い戻しに応じない(相続人間の紛争に巻き込まれないため。また、後になって遺言等が出て来る可能性もあるから。)。

具体的には、払い戻しに際しては、戸籍から確認できる共同相続人全員による遺産分割協議書(全相続人の印鑑証明書を付して)の提出か、戸籍から確認できる共同相続人全員から印鑑証明書を付して書面(共同相続人の1人に対して払戻しをすることに同意し、かつ、以後第三者から何らかの権利主張がなされたときには、全員で責任をもって処理する旨の書面)の提出を求められる。このような書面によって、かりに金融機関が表見相続人に預金を弁済した場合にも、478条によって善意・無過失であるとして当該弁済の効力を主張・立証するための資料とすることになる。

*法定相続分とは異なる割合で債権を分割したり、共同相続人の1人だけに帰属させたりしたときには、これを債務者その他の第三者に対抗するためには、債権譲渡の対抗要件が必要である点に注意(最判昭和48.11.22金法708号31頁)。

 

3)U銀行に対する連帯保証債務

ⅰ)平成19年4月1日に、Kは、花井土木がU銀行から借り入れた借入金を含め、U銀行との間に、極度額5000万円、期間5年の根保証契約(連帯保証契約)を締結している。平成16 年11 月に、包括根保証を禁止する内容の民法改正が成立し、平成17 年4月1日から施行されている。平成16年改正によって、保証契約の成立に書面を要することになり(446条2項)、また、民法に新たな「貸金等根保証契約」との条項ができ、貸金等債務の根保証契約には、「極度額」および「確定期日」の定めをすることが必要となった(第465条の2以下)。保証人は、契約で定められた5年以内の期間(定めが無いときは3年間)に発生した債務に限定して責任を負うことになった。

また、根保証は、連帯保証人の死亡により確定し、これ以上の変動はしない(第465条の4第3号 従来の最判S37・11・9民集16巻11号2270頁を条文化したもの)。したがって、本件では、Kが死亡した平成23年7月7日に元本が確定することになり、Kが保証する金額は3000万円となる。その後、会社が借り増ししたとしても、その分については、MABCは負担しない。

ⅱ)借入金3000万円の保証債務については、当然に各相続人が分割して承継する(連帯債務について最判昭和34・6・19民集13巻6号757頁参照)。

判例は、①連帯債務は債権の確保・満足の点では相互に関連、結合しているが、なお可分であること、②可分債務が相続により複数の相続人に承継される場合には、法律上当然に分割され、各相続人は相続人に相続分に応じて承継されることから、連帯債務者の一人が死亡した場合にも相続人に分割承継し(分割承継された債務間の関係については不明)、他の本来の連帯債務者と相続人は分割された債務の範囲で連帯するものと解している。

しかし、判例の結論は、連帯債務者の死亡によって連帯債務の効力を弱めることから、学説上は反対する見解が多い。②の一般論を肯定するとしても、債務者の死亡という債権者の関与しない事情によって、債権者の利益が害されることから(債権が細分化され多数になり、債権取立等の手数が煩雑になること、相続人および各自の債務の負担割合の確知が困難であること、共同相続人中のある者が無資力である場合には債権回収が困難となることなど)、連帯債務はこれとは別に、各相続人は債権者に対する関係では、全部給付義務を負い、被相続人の負担部分が各相続人の相続分に応じて分担されると解すべきであるとする見解が主張されている。

上記の有力説によれば、確かに相続という偶然の事情により連帯保証人が追加されたのに等しい結果となり、債権者は保護されることになるが、その反面、共同相続人の中に無資力のものがあると、債権者に全額弁済した相続人は求償権を行使しても実効性がないなど、相続人が不利益を受ける可能性がある。判例は、細分化されるとしても相続人全員で被相続人が負担していた債務と同じ額を負担するということで足りると考えているものと思われる。

連帯債務に関する上記の最高裁判決に準じて考えると、Cについていえば、6分の1である500万円を負担することになり、この範囲で、主たる債務者である花井土木と連帯することになる。

なお、会社は返済を継続しているので、連帯保証債務は現実化していない(請求されるという事態は潜在的なものである)。相続税の計算においても、保証債務が現実化して初めて債務として考慮される。

銀行からすると、花井土木への貸付に必要な連帯保証人に欠員が生じていることになる。そこで、銀行実務では、通常、連帯保証人(根保証)を取り直しすることが一般的である。個人経営に等しい株式会社の借入については、実質的な経営者個人の連帯保証とその者が所有する不動産を担保に取ることが多い。その場合に、経営者が死亡したときには、相続人のうちで、会社の経営を承継し、かつ担保が設定されている不動産を相続で取得したものを連帯保証人(根保証)として取り直すことが多い。

2015年度番外編配点表 千葉担当分(11月26日)

木曜オフィスアワー番外編(民法) 2015

2015年度番外編問題(民法)

                        出題 千葉恵美子

 【問題】現時点が平成254月であるとして、以下の言い分を読んで、以下の設問に答えなさい。なお、解答にあたっては、亡父をK、母をMと長男(兄)をA長女(姉)をB、次男をCと記載するものとする。

Cの言い分

私の亡父Kの相続に関して、ご相談します。

亡父Kは大津市に住んでいましたが、平成23年7月7日に、75歳で亡くなりました。相続人は、母と長男A(兄)、長女B(姉)、次男である私()の合計4名です。兄は滋賀県庁に勤務しており、姉は和歌山で旅館を営む義兄と結婚して女将をやっています。また、私は設計事務所で一級建築士をしています。

父は難病指定されている筋萎縮性側索硬化症という病気になり、大津市には、当時専門医がいなかったことや症状が悪化してきたことから、平成22年4月初旬に、京都市内の専門医のいる病院に入院しました。しかし、一度も退院することはできないまま亡くなりました。

母は体調がすぐれず、父が入院した時に、和歌山の姉のところに身を寄せておりました。父が死亡した後、母はさらに病状が悪化して入院するに至りました。

父母と兄家族は、大津市内にある甲土地(200坪、時価3000万円)の上に、二棟の建物を建て、甲土地の東半分にある母屋に父母が、西半分にある離れに兄とその家族が住んでいました。

母屋(時価1000万円)は、昭和59年の建設で、父の名義で保存登記がされています。離れは、平成10年に建設され、兄の名義で保存登記がされています。建築資金1000万円は兄自身が負担したようです。

父は、自宅の隣に所有する乙土地(500坪、時価5000万円)を花井土木という建設会社に、平成10年7月1日に、建物所有を目的として期間10年、年額240万円の賃料で貸しており、平成20年7月1日に、同じ条件で契約が更新されています。花井土木は乙土地に事務所建物(200坪)を所有しているほか、ダンプや重機などの駐車場と資材置き場として利用しています。地代の振込み用に開設したS銀行の父名義の預金口座に、年額240万円が毎年6月末に振り込まれており、平成24年6月30日にも一年分の地代の振込みがありました。現在、これまで振り込まれた賃料の残額960万円とあわせると預金残高は1200万円になります。

このほか、父は祖父から相続した丙地(300坪、時価3000万円)を所有しており、現在は、更地になっています。

ところで、花井土木は、父が設立した会社なのですが、兄が会社を継がなかったことから、後継者がおらず、取引銀行であるU銀行のお世話で、父は、平成19年にM&Aによって花井土木を売却しました。この売却代金の一部で、父は有料老人ホームの利用権を購入たようです。設備や介護サービスも充実しており、医師も常駐しているとのことで、もう少し体力が弱ってきたら、母とともに暮らすことにしていたようです。売却代金の残額3000万円については、U銀行に定期預金をしてあると母から聞いています。

私が心配をしているのは、父が連帯保証人となっていることです。父は花井土木の代表取締役社長をしていた時に、花井土木のU銀行に対する債務について、現在および将来U銀行から借り入れを受ける際に、連帯して保証するという内容の契約をしていたようです。父は、花井土木を売却した時に、引き続き花井土木の相談役を務めることにした関係で、平成19年4月1日に、期間を5年、現在および将来花井土木がU銀行から借り入れを受ける際に、極度額5000万円の限度で連帯して保証するとする契約を締結したようです。契約内容については、書面の写しが手元にあります。父が死亡した時点でU銀行から花井土木の借入金は3000万円、平成25年4月1日時点で4800万円となっています。

また、大変お恥ずかしい話ですが、父の一周忌の法要が終わってから、父の遺産をめぐって兄ともめてしまいました。兄は、父の了解を得て、甲土地の西半分を利用してそこに自宅を建てたことはお話をしたとおりですが、母は和歌山の姉のところに身を寄せていましたので、父と母が住んでいた母屋が空き家になっていました。平成22年6月頃から兄はこの母屋に夫婦で住み、離れには兄の息子夫婦が住んでいます。甲土地も母屋も自分の物のように使っている兄には腹が立ちます。

私は、平成23年4月に東京の設計事務所から独立して京都市内に自分の事務所を開いたのですが、大津に事務所を移したいと考えており、この母屋の一部に自分の設計事務所を開設したいと思っています。姉に相談したところ、母も賛成してくれるだろうといって、姉が了解してくれました。

 

Aの言い分

私が滋賀県庁に勤務している関係で、両親の家と「スープの冷めない距離」に住んで、父と母をずっと見守ってきました。父が京都の病院に入院してからは、1年以上も1日おきに、大津から京都まで通って、入院した父の身のまわりの世話や看病したのは、私の妻です。父が入院してから、母は和歌山の妹のところに身を寄せることになりましたが、それは、妻が看病のために、大津と京都の間を行ったり来たりしていたからです。

弟は私が甲土地や母屋を勝手に使っているようにいいますが、私がマイホームを建設しようと思っていたときに、父が「甲土地の半分が空き地になっているんだから、ここに建ててくれると、私も母さんも安心だ。」といってくれたので、今の場所に自宅を建てたのです。確かに、地代を支払っていません。しかし、それは、父が、地代など受け取ることができないといったためです。

父が入院する半年前に私の息子が結婚して離れに同居していました。離れに2所帯は狭いので、空き家になっていた母屋をわれわれ夫婦が利用し、息子夫婦が離れを利用することにしました。母に了解をとったわけではありませんが、文句を言うはずはありません。これまで、私は長男としての責任を十分果たしてきたと思います。妹も弟も、仕事が忙しいといって、月に1度しか父の見舞いに来ませんでした。

 

<Bの言い分>

母が私のもとに身を寄せたのは、兄の妻との折り合いが悪くなったためです。隣に兄夫婦が住んでいるのに、面倒をみてくれず、父が京都で入院するまで4年余りの間、母が1人で父の看護、介護をしていました。そのうちに、母はすっかり体調をくずしたようです。父と母は花井土木からの地代と年金、それにこれまで蓄えた預貯金で生活費を賄ってきましたので、兄夫婦が経済的に父母の面倒をみてきたわけではありません。私と暮らすようになってからも、母は年金の振込み用の郵便貯金とS銀行およびU銀行の父名義の預金については、自分で管理していました。

平成23年12月中旬に、母の病気が悪化して入院し、それ以降は、私が母の財産を管理しています。

平成243月に、弟と甲土地の利用方法について相談し、母屋については弟に設計事務所として利用させると決めました。

<Mの言い分>

夫の介護疲れで持病が悪化し、私のことを心配した長女が自分のところで生活するように言ってくれましたので、平成22年5月から和歌山の長女のところで生活をしております。とても腹が立っているのは、私がもう大津に戻ってくるはずはないと思っているのか、長男夫婦が母屋を自分の物のように利用していることです。何度か電話をしたのですが、私に何の挨拶もなく、長男は私の荷物を長女宛に送ると言いました。母屋の名義は夫となっていますが、永年夫と生活をした家であり、長男夫婦が母屋を自分の物のように利用できるようなものではありません。

夫の死亡後、私は持病の糖尿病が悪化して、平成23年12月15日に和歌山市内の病院に入院しました。長女が親身になって私の看病をしてくれていますので、入院してからは長女に私の財産の管理はすべて任せることにしました。長女に郵便貯金通帳とS銀行の預金通帳・カード・印鑑などを預かってもらっています。また、入院が長期になりそうでしたので、平成24年2月1日に、「私は自分の財産の管理について長女に一任する」旨の委任状を作成し、署名・捺印をして長女に渡しました。

 

設問1 次の小問に答えなさい。なお、小問2)の検討にあっては、小問1)を考慮しないこと。

1) 平成24年2月頃、A夫婦の態度に腹がったMは、Aに対して甲土地上にある母屋の明渡しを求めたいと考えた。上記MABCの言い分を前提として、Mは、どのような法的根拠に基づいて請求することができるか、考えられる法的根拠を示して、その法的根拠が成り立つ理由を説明しなさい。

2) Cは、平成25年4月、Aに対して、甲土地上にある母屋の共有者であることに基づき、その明渡しを求めて訴訟を提起した。上記MABCの言い分を前提として、Aから反論として「自分も共同相続人の一人である」と主張がされた場合に、Bの言い分のうち、下線部の事実の主張について,攻撃防御方法の位置づけを検討した上で,同主張が認められるかどうか、理由を付して説明しなさい。

 設問2 平成24年4月頃から、Cは15歳ほど年下の女性Dと親密な関係にあった。DはEと婚姻していたが、1年前から別居していた。DとEは離婚について協議中であったが、Eから「勝手に家を出て行ったのは、君だ。慰謝料でも支払ってくれるのであれば離婚に応じてもよい。金も財産もないのに、離婚だって。よくもそんなことをぬけぬけといえるものだ。」と言われた。

DEの話し合いの内容を聞いたCは、Dと婚姻したいと考えていたことから、丙地について共同相続登記を経由した上、Dと相談して、丙土地のCの持分について売買を原因としてDへ移転し、DがEに慰謝料を支払う原資があることを示して、Eとの離婚協議をさせることにした。もちろんCには丙地をDに売るつもりはなかった。

しかし、Cから上記の経緯を聞いたBは、DEが共謀してCを騙し丙地を手に入れようとしているのではないかと心配している。BがDに対してDの持分移転登記の抹消登記を求めて訴えを提起した場合,同請求は認められるか。

木曜オフィスアワー番外編(憲法) 2015.11.6実施分 講評

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1. 出題の趣旨

① 事案の特殊性と日頃の学習における事案分析の重要性

憲法の事例問題というと、「法令や処分などの国家的規制によって特定個人の利益が侵害された場合に」、「憲法上の権利を援用して」、「当該規制の無効」または「当該規制の適用がないこと」を主張・立証するものが多いことは、周知のとおりである。そして、通常、基本書の類もこのような事案を想定しつつ、代表的な解釈学説を体系的に整理している。

ところが、実際に憲法論が主張される事案は、必ずしも、上に見たような形態をとっているとは限らない。そのような代表的な例として、行政に一定の裁量が認められることを前提として、その裁量権行使のあり方を問題にするパターンである(例えば、剣道実技拒否事件など参照)。そして、もうひとつの典型例が本問で出題したような団体内部における構成員の自由の保障の問題である(ほかにもパターンはあるので、だからこそ判例を事案も含めて丁寧に読んで分析しておくことが重要なのだ)。

本問では、学生のみなさんが通常、慣れ親しんでいる事案とは異なる事案を問うことによって、事案の構造の把握や事案類型の整理が大切だということに気付いてもらおうという点に第一の狙いがある。

 

② 先 例

(1) 赤い羽根共同募金事件(大阪高判平成19年8月24日判時1992号72頁)

さて、本問作成の際に直接参考にしたのは、赤い羽根共同募金事件である[1]。この事案は、地域自治会Yが、定期総会において自治会費を増額する決議をしたことにつき、会員であるXらが、Xらの思想及び良心の自由等を侵害し公序良俗に反する等と主張して、決議無効確認、債務不存在確認を求めて提訴した事案である。この事案については、下級審裁判例であり、かつ、地方自治百選などでは取り上げられているものの憲法百選などでは登載されていないことから、必ずしも(とくに学生の皆さんにとって)注目度が高くないが、重要な判例である。そこで、判旨を確認しておこう。

 

募金及び寄付金は、その性格からして、本来これを受け取る団体等やその使途いかんを問わず、すべて任意に行われるべきものであり、何人もこれを強制されるべきものではない。上記一(2)のとおり、本件決議がなされる以前の被控訴人の会員の本件各会に対する募金及び寄付金に対する態度は一様ではなく、本件各会ごとに見ると、集金に協力した世帯は全世帯の半数程度以下であり、しかも本件各会ごとに募金及び寄付金を拠出するかどうか対応を異にする会員もいたことが窺われる。このように、従前募金及び寄付金の集金に協力しない会員も多く、本件各会ごとに態度を異にする会員がいる中で、班長や組長の集金の負担の解消を理由に、これを会費化して一律に協力を求めようとすること自体、被控訴人の団体の性格からして、様々な価値観を有する会員が存在することが予想されるのに、これを無視するものである上、募金及び寄付金の趣旨にも反するものといわざるを得ない。また、少額とはいえ、経済状態によっては、義務的な会費はともかく、募金及び寄付金には一切応じない、応じられない会員がいることも容易に想像することができるところである。学校後援会費については、会員の子弟が通学しているかどうかによって、協力の有無及び程度が当然異なるものと考えられる。募金及び寄付金に応じるかどうか、どのような団体等又は使途について応じるかは、各人の属性、社会的・経済的状況等を踏まえた思想、信条に大きく左右されるものであり、仮にこれを受ける団体等が公共的なものであっても、これに応じない会員がいることは当然考えられるから、会員の募金及び寄付金に対する態度、決定は十分尊重されなければならない。

したがって、そのような会員の態度、決定を十分尊重せず、募金及び寄付金の集金にあたり、その支払を事実上強制するような場合には、思想、信条の自由の侵害の問題が生じ得る。もっとも、思想、信条の自由について規定する憲法一九条は、私人間の問題に当然適用されるものとは解されないが、上記事実上の強制の態様等からして、これが社会的に許容される限度を超えるときには、思想、信条の自由を侵害するものとして、民法九〇条の公序良俗違反としてその効力を否定される場合があり得るというべきである。

本件決議は、本件各会に対する募金及び寄付金を一括して一律に会費として徴収し、その支払をしようとするものであるから、これが強制を伴うときは、会員に対し、募金及び寄付金に対する任意の意思決定の機会を奪うものとなる。なお、被控訴人は、本件各会に対する募金及び寄付金を会費の一部として集金しようとするものであるが、本件決議に至る経緯からして、これは名目上及び徴収の都合上のことにすぎず、実質は募金及び寄付金を徴収し、これをそのまま本件各会に支出することを予定していたものであって、被控訴人の本件各会に対する募金及び寄付金の支出と会員からの集金とは、その名目にかかわらず、その関係は直接的かつ具体的であるということができる。

次に、被控訴人は、前記第二の二(2)のとおり、強制加入団体ではないものの対象区域内の全世帯の約八八・六パーセント、九三九世帯が加入する地縁団体であり、その活動は、市等の公共機関からの配布物の配布、災害時等の協力、清掃、防犯、文化等の各種行事、集会所の提供等極めて広範囲に及んでおり、地域住民が日常生活を送る上において欠かせない存在であること、被控訴人が、平成一六年五月ころ、自治会未加入者に対しては、〔1〕甲南町からの配布物を配布しない、〔2〕災害、不幸などがあった場合、協力は一切しない、〔3〕今後新たに設置するごみ集積所やごみステーションを利用することはできないという対応をすることを三役会議で決定していることからすると、会員の脱退の自由は事実上制限されているものといわざるを得ない。

そして,被控訴人において、本件決議に基づき、募金及び寄付金を一律に会費として徴収するときは、これが会員の義務とされていることからして、これを納付しなければ強制的に履行させられたり、不納付を続ければ、被控訴人からの脱退を余儀なくされるおそれがあるというべきである。これに関し、(証拠省略)には、会費の不納付者に対しても、脱退を求めず、会員として取り扱っている旨の記載がある。しかし、上記証拠によっても、会費については、不納付扱いではなく保留扱いとしているのであって、いわば徴収の猶予をしているにすぎないから、現在このような扱いがなされているからといって、将来も(裁判終了後も)脱退を余儀なくされるおそれがないとはいえない。

そうすると、本件決議に基づく増額会費名目の募金及び寄付金の徴収は、募金及び寄付金に応じるか否か、どの団体等になすべきか等について、会員の任意の態度、決定を十分尊重すべきであるにもかかわらず、会員の生活上不可欠な存在である地縁団体により、会員の意思、決定とは関係なく一律に、事実上の強制をもってなされるものであり、その強制は社会的に許容される限度を超えるものというべきである。

したがって、このような内容を有する本件決議は、被控訴人の会員の思想、信条の自由を侵害するものであって、公序良俗に反し無効というべきである。」

 

このような裁判例があることを踏まえれば、本問については、容易に検討・解答ができるものと考えられる。

(2) 「でもでもだって、こまっちゃう。受験生だもん」

とはいえ、この裁判例がある意味マイナーなものであることは否定しがたく、(実務になってからそんなこと言っていると張り倒されそうだけれども)このレベルまでフォローして勉強しておかなくちゃいけないと言われると絶望的な気持ちになるであろうことも想像に難くない。

もちろん、私も、「赤い羽根共同募金事件を知らないなんて、勉強不足だ。たるんでる!判例集百回読んで出直してこい!」などというつもりはない。当該裁判例を知っていれば圧倒的に有利になることは間違いない[2]が、こんなところまで勉強している時間があるくらいなら、統治やその他の科目をきちんとこなすことの方が圧倒的に優先順位は高い。

だから、みなさんが、「そうはいっても、そんなん無理やん」というのであれば、「そらせやな」と返すしかない。それではどうするか。

そういう時には、大きく分けて二つの作業を並行的に進めてほしい。それは、(ア)関連しそうな先例をできる限り多く思い出すこと、(イ)事案の法的構造をあぶりだすことの二つである。この二つは、互いに関連しあっており、(ア)の作業によって(イ)が見えてくることもあれば、その逆もある。「二つの作業を並行的に」というのはそういう意味である。

(3) 関連判例

そこでまず、(ア)の作業をしてみよう。好みの問題もあるが、個人的には、(ア)→(イ)のほうが、スムーズに憲法上の論点の検討に移れることが多いように思われる。

さて、本問では、ある団体の意思決定によって、その構成員の基本権が侵害されているのではないか?という事案である。そのような事案だとすると、まず何よりも、この領域には、以下のような判例群が存在することが思い浮かぶだろう。すなわち、三井美唄労組事件(最大判昭和43年12月4日刑集22巻13号142頁【百選Ⅱ-149】)、八幡製鉄事件(最大判昭和45年6月24日民集24巻6号625頁【百選Ⅰ-9】)、国労広島地本事件(最判昭和50年11月28日民集29巻10号1698頁【百選Ⅱ-150】)南九州税理士会事件(最判平成8年3月19日民集50巻3号615頁【百選Ⅰ-39】)、群馬司法書士会事件(最判平成14年4月25日裁時1314号1頁【判プラ59】)などである。これらの判例は、(百選登載箇所がバラバラなことからもわかるように)一見相互に連関しているようには見えないかもしれないが、事案構造が実はよく似ており、各判例もそれぞれの判決を気にしながら判断を行っているところである。

本問の出題趣旨の2番目は、このような判例群を踏まえて、本件をどのように処理するかという点にある。採点実感でしばしば表明されることだが、憲法の事例問題では、学説の理解や適切な較量などの前に、先例を十分に理解しているかが問われる。これは、言い換えれば、先例の動向を関連判例まで含めて、適切に検討できない場合には、評価が下がらざるを得ないということでもある。

③ 本件事案の法的構造

以上を思い出しながら、本件事案の法的構造も分析してみよう。参考資料として条文もあげておけばよかったかもしれないが[3]、本問で問題となっているのは、地自法260条の2に定められている認可地縁団体である。そこで、まず、条文を確認しておこう。

 

地方自治法第二百六十条の二

1 町又は字の区域その他市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体(以下本条において「地縁による団体」という。)は、地域的な共同活動のための不動産又は不動産に関する権利等を保有するため市町村長の認可を受けたときは、その規約に定める目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。

2 前項の認可は、地縁による団体のうち次に掲げる要件に該当するものについて、その団体の代表者が総務省令で定めるところにより行う申請に基づいて行う。

一  その区域の住民相互の連絡、環境の整備、集会施設の維持管理等良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を行うことを目的とし、現にその活動を行つていると認められること。

二  その区域が、住民にとつて客観的に明らかなものとして定められていること。

三  その区域に住所を有するすべての個人は、構成員となることができるものとし、その相当数の者が現に構成員となつていること。

四  規約を定めていること。

3 規約には、次に掲げる事項が定められていなければならない。

一  目的

二  名称

三  区域

四  事務所の所在地

五  構成員の資格に関する事項

六  代表者に関する事項

七  会議に関する事項

八  資産に関する事項

4 第二項第二号の区域は、当該地縁による団体が相当の期間にわたつて存続している区域の現況によらなければならない。

5 市町村長は、地縁による団体が第二項各号に掲げる要件に該当していると認めるときは、第一項の認可をしなければならない。

6 第一項の認可は、当該認可を受けた地縁による団体を、公共団体その他の行政組織の一部とすることを意味するものと解釈してはならない。

7 第一項の認可を受けた地縁による団体は、正当な理由がない限り、その区域に住所を有する個人の加入を拒んではならない。

8 第一項の認可を受けた地縁による団体は、民主的な運営の下に、自主的に活動するものとし、構成員に対し不当な差別的取扱いをしてはならない。

(以下略)

 

以上の条文を前提とすると、いくつかの事柄が理解されよう。

 

(ⅰ)まず、6項では、認可地縁団体は行政組織の一部ではないとされている。すると、憲法の観点からは、認可地縁団体が公法人と解すべきか、私法人と解すべきかによって、直接適用の有無が変わりそうである。

(ⅱ)次に、規約がないことが気にはなるが、その点はさておくとしても、認可地縁団体は、その区域の住民相互の連絡、環境の整備、集会施設の維持管理等良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を行うことを目的とするものであるということである(2項1号)。団体は目的の範囲内でしか権利能力を持たないのであるから、本件決議の前提となる会費値上げと当番制実施の決議が以上の目的を超えるかが問題となる。

(ⅲ)第三に、法は、認可地縁団体に、「その区域に住所を有するすべての個人は、構成員となることができるもの」とすること(2項3号)、「団体は、正当な理由がない限り、その区域に住所を有する個人の加入を拒んではならない」こと(7項)、「民主的な運営の下に、自主的に活動するものとし、構成員に対し不当な差別的取扱いをしてはならない」こと(8項)を要求している。その趣旨は、おそらく、認可地縁団体がその区域に住所を有する個人の「相当数の者が現に構成員となっていること」を前提としていることと関連している。すなわち、認可地縁団体が、その区域に住む個人の生活にとって重要であって、かつ、その地域の相当数が加入しているとすると、そこでの加入拒否や差別的取り扱いは、個人にとって耐えがたい苦痛を生むことになる。つまり、これらの条文は、団体の性格に鑑みつつ、個人の利益と団体の利益との調和を図ったものとみることが可能である。

 

次に、本件決議についても考えておこう。あなたが望んでいるのは、あなたに町内会の退会を勧告する本件決議の無効の確認である。これによって退会の効果は直接には生じないかもしれないが、本決議が採択されたということは、他の町内会構成員によって、町内会を通じてあなたが受けられる利益を今後享受させないという意思が確認されたということでもある。事実上、退会させるものと評価できるだろう。

他方、本件決議の前提として、町内会側には、あなたに値上げ相当分の会費納入義務と当番を担う義務があるのに、あなたがそれらに反しているという評価がある。そうすると、値上げ相当分の会費納入義務や当番を担う義務の発生にかかわる決議が違法な場合には、決議の理由もないということになろう。

これらの諸点をどのように検討するかについてはともかく、少なくとも、以上のような事案の法的構造が解析できなければ、どこでどのように憲法論を展開するかも不明確にならざるを得ない。この点を意識してもらうことも本問出題の狙いである。

 

④ 論 点  以上の整理を踏まえると、本問で考察されるべき論点は、以下のようなものであることが理解されよう。

 

(1) 私人間効力

(2) 団体の行為と構成員の思想・信条の自由

 

これらの諸点について聞くのが、結局のところ、本問の出題の趣旨の核心である。以上諸点が適切に検討されていない答案は評価が下がらざるを得ない。

 

2. いくつかの論点にかんするコメント

① 総 論  以上の分析ができたら、実際にどのような論証を行うかを考えるステップに入る。その際に重要なのは、原告の利益を保護するために可能な法的主張を確認しておくということである。

先にも若干触れたが、本問で直接問題になっているのは、本件決議の無効である。本件決議を無効とするためには、本件決議内容が法令等や公序良俗に反するといった主張が考えられる。そのような主張を効果的に行うために、どのような憲法論を組み立てるかが問われるわけである。

 

② 私人間効力

他方、本問においては、町内会の法的性格が問題になるから、町内会による各決議に対して憲法の直接適用が可能かも検討されなければならないだろう。それによって、論証のスタイルも変わってくるはずである。

そこで、まず、この点について見通しをつけておこう。判例や地自法の規定からしても、認可地縁団体については、私法人とするのが基本的な考え方であろう。これを前提とする場合には、憲法論が展開しにくいと思われるかもしれないが、そうではない、ということは、上述の各判例が憲法判例として取り上げられていることからも理解されよう。

もっとも、直接適用を狙った方が、審査基準も上がるなど、有利な結論を導きやすくなるという判断もあるかもしれない[4]。気を付けてほしいのは、本問でこのような主張をする場合、判例や法の定めとは異なる主張をするわけであるから、その分だけ、丁寧な説明が求められるということである。少なくとも、一言くらいは、「あえてそうしているんだな」ということが感じられるフレーズを挿入したり、予備的な主張として間接適用説に基づくものも用意するなどしてほしい。

ご存知のように、私人間効力が争われた有力な判例は、三菱樹脂事件(最大判昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁【百選Ⅰ-10】)である。もちろん、ここでは、直接適用が否定されたわけであるが、学説上は、いわゆるステイト・アクションの法理を支持するものもないわけではない[5]。その場合には、認可地縁団体が(法の規定にもかかわらず)国家権力と同視できることが指摘されることになる。

 

③ 思想・信条の自由

つぎに、思想・信条の自由についても、具体的な論証の構成を考える前にある程度整理しておく方が有益だろう。というのも、「常日頃から、動物愛護の精神から、犬や猫に避妊手術を施すことには反対」というのが思想や良心といえるかはいささか疑問だからである。

このような個人の特定の考え方が憲法19条の保護範囲に入っているかという問題を考える際に、初学者がすぐに思いつくのが、謝罪広告事件と、いわゆる信仰説vs内心説といった学説上の対立である。もっとも、すぐにある程度、勉強を進めている人には、このような単純な理解は、近年の判例動向とも整合せず、要注意な議論だということは察しがつくだろう。

紙幅の関係上、ここで詳述することはできないが(かといって、残念ながらこの点をコンパクトに解説した基本書類もないのだが)、いくつかのポイントに触れておこう。

まず、憲法19条の保障範囲に関する議論は、その保障の効果とも連動しているという点である。これもよく知られているように、学説上、憲法19条による保障の効果は、いかなる法律の留保も認めず、絶対的なものだという理解に立つか、それとも、一定の場合に憲法19条が保障する各種利益に対する介入が正当化できるという理解に立つかが分かれている。

この点、学説上、多数なのは前者だと思われるが、前者の理解に立つ場合には、憲法19条の保障範囲をある程度絞る必要が出てくることになる。この点で、もっとも洗練されているといえるのが佐藤幸治説だと思われる(佐藤・218-224頁参照)。

他方で、判例は、この問題を意識しつつも、いわゆる国旗・国歌訴訟の一連の判決の中で、学説とは異なる理解を見せている。最判平成23年5月30日民集65巻4号1780頁で示された、いわゆる間接的制約論がそれであるが、とくにこの判決に付された竹内、須藤、千葉の各個別意見を参考にされたい。

 

④ 団体の内部自治と構成員の権利

 すでに指摘したように、本件は団体の内部自治と構成員の権利の衝突が問題になっている。そこで、まず、この種の事案のリーディングケースである南九州税理士会事件を見ておこう。この事件では、「税理士会が政党など規正法上の政治団体に金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するためのものであっても、法四九条二項で定められた税理士会の目的の範囲外の行為であり、右寄付をするために会員から特別会費を徴収する旨の決議は無効であると解すべき」だとされたことがポイントである。すなわち、(ア)八幡製鉄事件で株式会社について認められていた政治献金が、(イ)税理士会の場合は、その目的の範囲外だとされた点が重要なわけである。  そして、その理屈は次のようなものであった。

 

「(一)民法上の法人は、法令の規定に従い定款又は寄付行為で定められた目的の範囲内において権利を有し、義務を負う(民法四三条)。この理は、会社についても基本的に妥当するが、会社における目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行する上に直接又は間接に必要な行為であればすべてこれに包含され……、さらには、会社が政党に政治資金を寄付することも、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためにされたものと認められる限りにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為とするに妨げないとされる……」。

「(二)しかしながら,税理士会は、会社とはその法的性格を異にする法人であって、その目的の範囲については会社と同一に論ずることはできない。

税理士は、国税局の管轄区域ごとに一つの税理士会を設立すべきことが義務付けられ(法四九条一項)、税理士会は法人とされる(同条三項)。また、全国の税理士会は、日税連を設立しなければならず、日税連は法人とされ、各税理士会は、当然に日税連の会員となる(法四九条の一四第一、第三、四項)。

税理士会の目的は、会則の定めをまたず、あらかじめ、法において直接具体的に定められている。すなわち、法四九条二項において、税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とするとされ(法四九条の二第二項では税理士会の目的は会則の必要的記載事項ともされていない。)、法四九条の一二第一項においては、税理士会は、税務行政その他国税若しくは地方税又は税理士に関する制度について、権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができるとされている。

また、税理士会は、総会の決議並びに役員の就任及び退任を大蔵大臣に報告しなければならず(法四九条の一一)、大蔵大臣は、税理士会の総会の決議又は役員の行為が法令又はその税理士会の会則に違反し、その他公益を害するときは、総会の決議についてはこれを取り消すべきことを命じ、役員についてはこれを解任すべきことを命ずることができ(法四九条の一八)、税理士会の適正な運営を確保するため必要があるときは、税理士会から報告を徴し、その行う業務について勧告し、又は当該職員をして税理士会の業務の状況若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる(法四九条の一九第一項)とされている。

さらに、税理士会は、税理士の入会が間接的に強制されるいわゆる強制加入団体であり、法に別段の定めがある場合を除く外、税理士であって、かつ、税理士会に入会している者でなければ税理士業務を行ってはならないとされている(法五二条)。

(三)以上のとおり、税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的として、法が、あらかじめ、税理士にその設立を義務付け、その結果設立されたもので、その決議や役員の行為が法令や会則に反したりすることがないように、大蔵大臣の前記のような監督に服する法人である。また、税理士会は、強制加入団体であって、その会員には、実質的には脱退の自由が保障されていない」。

「税理士会は、以上のように、会社とはその法的性格を異にする法人であり、その目的の範囲についても、これを会社のように広範なものと解するならば、法の要請する公的な目的の達成を阻害して法の趣旨を没却する結果となることが明らかである。

(四)そして、税理士会が前記のとおり強制加入の団体であり、その会員である税理士に実質的には脱退の自由が保障されていないことからすると、その目的の範囲を判断するに当たっては、会員の思想・信条の自由との関係で、次のような考慮が必要である。

税理士会は、法人として、法及び会則所定の方式による多数決原理により決定された団体の意思に基づいて活動し、その構成員である会員は、これに従い協力する義務を負い、その一つとして会則に従って税理士会の経済的基礎を成す会費を納入する義務を負う。しかし、法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、様々の思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されている。したがって、税理士会が右の方式により決定した意思に基づいてする活動にも、そのために会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がある。

特に、政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきである。なぜなら、政党など規正法上の政治団体は、政治上の主義若しくは施策の推進、特定の公職の候補者の推薦等のため、金員の寄付を含む広範囲な政治活動をすることが当然に予定された政治団体であり(規正法三条等)、これらの団体に金員の寄付をすることは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につながる問題だからである。

法は、四九条の一二第一項の規定において、税理士会が、税務行政や税理士の制度等について権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができるとしているが、政党など規正法上の政治団体への金員の寄付を権限のある官公署に対する建議や答申と同視することはできない。

(五)そうすると、前記のような公的な性格を有する税理士会が、このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないというべきであり(最高裁昭和四八年(オ)第四九九号同五〇年一一月二八日第三小法廷判決・民集二九巻一〇号一六九八頁参照)、税理士会がそのような活動をすることは、法の全く予定していないところである。税理士会が政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、法四九条二項所定の税理士会の目的の範囲外の行為といわざるを得ない

2 以上の判断に照らして本件をみると、本件決議は、被上告人が規正法上の政治団体である南九各県税政へ金員を寄付するために、上告人を含む会員から特別会費として五〇〇〇円を徴収する旨の決議であり、被上告人の目的の範囲外の行為を目的とするものとして無効であると解するほかはない。」

 

もうひとつの重要判例として、群馬司法書士会事件も見ておこう。

 

「原審の適法に確定したところによれば,本件拠出金は,被災した兵庫県司法書士会及び同会所属の司法書士の個人的ないし物理的被害に対する直接的な金銭補てん又は見舞金という趣旨のものではなく,被災者の相談活動等を行う同司法書士会ないしこれに従事する司法書士への経済的支援を通じて司法書士の業務の円滑な遂行による公的機能の回復に資することを目的とする趣旨のものであったというのである。

 司法書士会は,司法書士の品位を保持し,その業務の改善進歩を図るため,会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とするものであるが(司法書士法14条2項),その目的を遂行する上で直接又は間接に必要な範囲で,他の司法書士会との間で業務その他について提携,協力,援助等をすることもその活動範囲に含まれるというべきである。そして,3000万円という本件拠出金の額については,それがやや多額にすぎるのではないかという見方があり得るとしても,阪神・淡路大震災が甚大な被害を生じさせた大災害であり,早急な支援を行う必要があったことなどの事情を考慮すると,その金額の大きさをもって直ちに本件拠出金の寄付が被上告人の目的の範囲を逸脱するものとまでいうことはできない。したがって,兵庫県司法書士会に本件拠出金を寄付することは,被上告人の権利能力の範囲内にあるというべきである。

そうすると,被上告人は,本件拠出金の調達方法についても,それが公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がある場合を除き,多数決原理に基づき自ら決定することができるものというべきである。これを本件についてみると,被上告人がいわゆる強制加入団体であること(同法19条)を考慮しても,本件負担金の徴収は,会員の政治的又は宗教的立場や思想信条の自由を害するものではなく,また,本件負担金の額も,登記申請事件1件につき,その平均報酬約2万1000円の0.2%強に当たる50円であり,これを3年間の範囲で徴収するというものであって,会員に社会通念上過大な負担を課するものではないのであるから,本件負担金の徴収について,公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情があるとは認められない。したがって,本件決議の効力は被上告人の会員である上告人らに対して及ぶものというべきである。」

 

さらに、国労広島地本事件も確認しよう。

 

「思うに、労働組合の組合員は、組合の構成員として留まる限り、組合が正規の手続に従つて決定した活動に参加し、また、組合の活動を妨害するような行為を避止する義務を負うとともに、右活動の経済的基礎をなす組合費を納付する義務を負うものであるが、これらの義務(以下「協力義務」という。)は、もとより無制限のものではない。労働組合は、労働者の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的とする団体であつて、組合員はかかる目的のための活動に参加する者としてこれに加入するのであるから、その協力義務も当然に右目的達成のために必要な団体活動の範囲に限られる。しかし、いうまでもなく、労働組合の活動は、必ずしも対使用者との関係において有利な労働条件を獲得することのみに限定されるものではない。労働組合は、歴史的には、使用者と労働者との間の雇用関係における労働者側の取引力の強化のために結成され、かかるものとして法認されてきた団体ではあるけれども、その活動は、決して固定的ではなく、社会の変化とそのなかにおける労働組合の意義や機能の変化に伴つて流動発展するものであり、今日においては、その活動の範囲が本来の経済的活動の域を超えて政治的活動、社会的活動、文化的活動など広く組合員の生活利益の擁護と向上に直接間接に関係する事項にも及び、しかも更に拡大の傾向を示しているのである。このような労働組合の活動の拡大は、そこにそれだけの社会的必然性を有するものであるから、これに対して法律が特段の制限や規制の措置をとらない限り、これらの活動そのものをもつて直ちに労働組合の目的の範囲外であるとし、あるいは労働組合が本来行うことのできない行為であるとすることはできない。

しかし、このように労働組合の活動の範囲が広く、かつ弾力的であるとしても、そのことから、労働組合がその目的の範囲内においてするすべての活動につき当然かつ一様に組合員に対して統制力を及ぼし、組合員の協力を強制することができるものと速断することはできない。労働組合の活動が組合員の一般的要請にこたえて拡大されるものであり,組合員としてもある程度まではこれを予想して組合に加入するのであるから、組合からの脱退の自由が確保されている限り、たとえ個々の場合に組合の決定した活動に反対の組合員であつても、原則的にはこれに対する協力義務を免れないというべきであるが、労働組合の活動が前記のように多様化するにつれて、組合による統制の範囲も拡大し、組合員が一個の市民又は人間として有する自由や権利と矛盾衝突する場合が増大し、しかも今日の社会的条件のもとでは、組合に加入していることが労働者にとつて重要な利益で、組合脱退の自由も事実上大きな制約を受けていることを考えると、労働組合の活動として許されたものであるというだけで、そのことから直ちにこれに対する組合員の協力義務を無条件で肯定することは、相当でないというべきである。それゆえ、この点に関して格別の立法上の規制が加えられていない場合でも、問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である。」

 

以上の諸判例をみればすぐに理解できるように、この種のタイプの問題では、(ア)団体の行為がその目的等に鑑みて、許容される種類のものか、(イ)そのうえで、その活動が構成員の利益を制約する場合に、それが許されるかという二点が争われることになる。

そして、南九州税理士会では、(ア)の点につき、団体の目的を広く把握する八幡製鉄事件や国労広島地本事件と異なり、強制加入性を重視して、狭く理解して、政治献金を目的外の行為としたのであった。これに対して、国労広島地本事件では、目的を広く理解したうえで、それによって生じる組合員構成員の利益の調和を図ろうという(イ)の点に比重を置いた議論がみられる。そして、群馬司法書士会事件もこれに近い。

しばしば、前者のようなタイプを「一段階理論」、後者のようなタイプを「二段階理論」などと呼ぶが、いずれにせよ、解答の際は、これらをどう処理するのかが求められる。

このように、本問のような団体の自治権と構成員の基本権が対立する場面では、保障範囲→介入→正当化という論証パターンでは処理できないということを肝に銘じておいてほしい。

[1] なお、宍戸常寿編『憲法演習ノート』(弘文堂、2015年)58-59頁〔宍戸常寿執筆〕にも類題が用意されている(ちなみに、みなさんに出題したものは私のオリジナルで、何年か前の近畿大学法学部アドバンスト憲法Bの期末試験問題です)。

[2] ちなみに、そういう裁判例はいくつかある。私の授業受けた人の中には、「ああ、あれねえ」と気が付くのもいるはず(だと願っている…)。

[3] いうまでもなく、地方自治法は、司法試験用法文として登載されている。

[4] この点、当事者主張反論型の問題であれば、原告側の立論として直接適用を、被告側の反論として無適用を主張したうえで、間接適用で私見を述べるという方法も答案作成上の戦略としてはありうるだろう。この点について、宍戸・前掲注1・54-58頁を参照。ただ、そうではないのに、解答が書きやすくなるからという理由だけで、直接適用をゴリ押しするのはいただけない。

[5] この点についても、宍戸・前掲注1・47-48頁参照。

木曜オフィス・アワー 番外編(憲法) 2015.11.6実施分 設問 

木曜オフィス・アワー 番外編(憲法)

出題:片桐

設問   あなたは、A市X町に住んでいる。X町では、認可地縁団体である町内会(地方自治法260条の2。以下、「本件町内会」という。)が組織されている。本件町内会には、住民のほぼ全員が入会しており、あなたも会員である。本件町内会は、規約や定款などはなく、入会、退会は自由であるが、他方、地域のゴミ集積場の管理・清掃や、地域にある道祖神の維持、夏祭りの実施、地域住民の冠婚葬祭の手伝いなど、住民相互の互助を行っている。本件町内会の意思決定は、全員参加を原則とする総会で行われており、会員はこれに参加する資格を有している。また、本件町内会では、上記各活動を行うための資金として、毎年4月に年会費6000円を各会員から徴収している。

X町では、近年、野良猫の繁殖が問題となっていた。2011年4月の本件町内会総会で、この対策として、野良猫を地域猫として飼育し、町内会々員が当番で餌やりをするとともに、このような地域猫に対して避妊手術を施すことにより、繁殖を抑えることが提案された。あなたは、常日頃から、動物愛護の精神から、犬や猫に避妊手術を施すことには反対しており、野良猫といえども、繁殖をする権利を有し、これに避妊手術をすることは、動物愛護の精神にもとると感じた。そこで、4月の総会では、これに反対票を投じた。しかしながら、総会では、賛成が多数を占め、8月1日からの当番制の実施と、2012年度会費から、地域猫対策のための費用として会費の値上げ(2000円)が可決された。

あなたは、これに納得できず、会費値上げ分の支払いと当番を拒否することを町内会長に告げたところ、町内会長は、「町内会に協力できない方は出て行ってください。会費は払わなくても結構ですが、今後、お宅の冠婚葬祭は手伝わないし、ゴミ置き場の使用も禁止します」と言い、同年6月の総会で、あなたの退会勧告を諮り、決議してしまった(以下、これを「本件決議」という)。

あなたは、裁判所で本件決議の無効を主張したい。憲法の観点からどのような主張が可能か検討しなさい。

短答式試験問題による重要基礎知識確認 講評(憲法)

短答式試験問題による重要基礎知識確認 講評(憲法)

1. 総 評

① 過去問を用いている割には正答率が低い者がいる。択一3科目時代に突入している現在、得点率80%が目安となることを肝に銘じてほしい。基本書レベル・百選レベルの理解と、近年の判例動向がフォローできていれば十分に達するはずである。

② ただし、今年度の出題傾向からは、教科書や百選登載判例を表面的にフォローしていれば足りるというのではなく、その論理や意味について理解しておくべきだというメッセージが受け取れる。この点は、今後の勉強の際にも注意すべきだろう。

② 傾向として、統治分野での得点ができていない者は、総得点が伸びない傾向にある。統治は論文対策でも勉強する人権に比べるとおろそかになりがちだが、しっかりとフォローしてほしい。

2.正答率が悪かった選択肢(正答率60%以下)に関する解説

① 第7問 マーク13 解答:8(×○×) (正答率 52.9%)

ア 最判17・7・14 図書館図書廃棄事件 百選Ⅰ-74

「公立図書館が,住民に図書館資料を提供するための公的な場であるとすれば,そこで閲覧に供される図書の著作者にとっても,その思想,意見等を公衆に伝達する公的な場であるということができるところ,そのような公的な場である公立図書館において閲覧に供されている図書を図書館職員において独断的な評価や個人的な好みによってこれを廃棄するなど不公正な取扱いをすることは,当該著作者が公立図書館という公的な場においてその著作物の思想,意見等を公衆に伝達する利益を合理的な理由なしに損なうものといわなければならず,したがって,公立図書館において,その著作物が閲覧に供されることにより,著作者は,その著作物について,合理的な理由なしに不公正な取扱いを受けないという上記の利益を取得するのであり,この利益は,法的保護に値する人格的利益であると解するのが相当であり,公立図書館の図書館職員である公務員が,図書の廃棄について,基本的な職務上の義務に反し,著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをしたときは,当該図書の著作者の上記人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となる」

イ. 最判平成16・11・25 NHK生活ほっとモーニング事件 判プラ118

法4条1項は,真実でない事項の放送について被害者から請求があった場合に,放送事業者に対して訂正放送等を義務付けるものであるが,この請求や義務の性質については,法の全体的な枠組みと趣旨を踏まえて解釈する必要がある。憲法21条が規定する表現の自由の保障の下において,法1条は,「放送が国民に最大限に普及されて,その効用をもたらすことを保障すること」(1号),「放送の不偏不党,真実及び自律を保障することによって,放送による表現の自由を確保すること」(2号),「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって,放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」(3号)という三つの原則に従って,放送を公共の福祉に適合するように規律し,その健全な発達を図ることを法の目的とすると規定しており,f法3条は,上記の表現の自由及び放送の自律性の保障の理念を具体化し,「放送番組は,法律に定める権限に基く場合でなければ,何人からも干渉され,又は規律されることがない」として,放送番組編集の自由を規定している。すなわち,別に法律で定める権限に基づく場合でなければ,他からの放送番組編集への関与は許されないのである。法4条1項も,これらの規定を受けたものであって,上記の放送の自律性の保障の理念を踏まえた上で,上記の真実性の保障の理念を具体化するための規定であると解される。そして,このことに加え,法4条1項自体をみても,放送をした事項が真実でないことが放送事業者に判明したときに訂正放送等を行うことを義務付けているだけであって,訂正放送等に関する裁判所の関与を規定していないこと,同項所定の義務違反について罰則が定められていること等を併せ考えると,同項は,真実でない事項の放送がされた場合において,放送内容の真実性の保障及び他からの干渉を排除することによる表現の自由の確保の観点から,放送事業者に対し,自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって,被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではないと解するのが相当である。前記のとおり、法4条1項は被害者からの訂正放送等の請求について規定しているが,同条2項の規定内容を併せ考えると,これは,同請求を,放送事業者が当該放送の真実性に関する調査及び訂正放送等を行うための端緒と位置付けているものと解するのが相当であって,これをもって,上記の私法上の請求権の根拠と解することはできない。」

ウ. 最大判昭和35・7・20 東京都公安条例事件 百選Ⅰ-A4 判プラ90

「規制の対象となる集団行動が行われる場所に関し、原判決は、本条例が集会若しくは集団行進については「道路その他公共の場所」、集団示威運動については「場所のいかんを問わず」というふうに、一般的にまたは一般的に近い制限をなしているから、制限が具体性を欠き不明確であると批判する。しかしいやしくも集団行動を法的に規制する必要があるとするなら、集団行動が行われ得るような場所をある程度包括的にかかげ、またはその行われる場所の如何を問わないものとすることは止むを得ない次第であり、他の条例において見受けられるような、本条例よりも幾分詳細な規準(例えば「道路公園その他公衆の自由に交通することができる場所」というごとき)を示していないからといつて、これを以て本条例が違憲、無効である理由とすることはできない。なお集団的示威運動が「場所のいかんを問わず」として一般的に制限されているにしても、かような運動が公衆の利用と全く無関係な場所において行われることは、運動の性質上想像できないところであり、これを論議することは全く実益がない。」

解説 本問の肢はそれぞれ、百選のうちでは少しマイナーなものや百選には搭載されていない判例について、その論理構造や言い回しに関する知識を問うものであった。27年度の短答式のひとつの特徴は、このような基本書や判例の「すこしだけ踏み込んだ理解」についても尋ねている点にある。その意味で、このレベルの問題にもぜひ正答したいところではある(ただ、三つの肢すべてについて正答が求められるので、ハードルは高いかもしれない)。すこし細かすぎるきらいがないではないが、しかし、本問で取り上げられている判例はいずれも論述式でも出題されうる分野であり、この程度の理解がなければ論述式の方がおぼつかなくなると思われる。

② 第10問 マーク20 正答2(×) (正答率 58.8%)

ウ 最判平成24・2・28 老齢加算廃止訴訟 判プラ227-2

「老齢加算の廃止を内容とする保護基準の改定は,〔1〕当該改定の時点において70歳以上の高齢者には老齢加算に見合う特別な需要が認められず,高齢者に係る当該改定後の生活扶助基準の内容が高齢者の健康で文化的な生活水準を維持するに足りるものであるとした厚生労働大臣の判断に,最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続における過誤,欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合,あるいは,〔2〕老齢加算の廃止に際し激変緩和等の措置を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当であるとした同大臣の判断に,被保護者の期待的利益や生活への影響等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に,生活保護法3条,8条2項の規定に違反し,違法となるものというべきである。」

解説 本問は老齢加算廃止訴訟の最判が扱われている。これは百選非搭載であるが、しかし、重要判例であることは否定できない。また、本判例についてはいわゆる判断過程統制の可能性について言及する部分に注目が集まっているが、本問で聞かれているのは、もう一つの期待的利益の保護の文脈である。期待的利益については、本判決は、「老齢加算の廃止は,これが支給されることを前提として現に生活設計を立てていた被保護者に関しては,保護基準によって具体化されていたその期待的利益の喪失を来す側面があることも否定し得ない」と述べており、法的権利とは言っていない。しかしながら、それでも、裁量権の逸脱濫用の可能性がありうる(その意味で司法審査の可能性を留保)しているところがミソなわけである。

③ 第11問 マーク21 正答21(○○×) (正答率 47.1%)

最判平成23・11・16 裁判員制度合憲判決 百選Ⅱ-181

国民の司法参加と適正な刑事裁判を実現するための諸原則とは,十分調和させることが可能であり,憲法上国民の司法参加がおよそ禁じられていると解すべき理由はなく,国民の司法参加に係る制度の合憲性は,具体的に設けられた制度が,適正な刑事裁判を実現するための諸原則に抵触するか否かによって決せられるべきものである。換言すれば,憲法は,一般的には国民の司法参加を許容しており,これを採用する場合には,上記の諸原則が確保されている限り,陪審制とするか参審制とするかを含め,その内容を立法政策に委ねていると解される」

「憲法76条3項によれば,裁判官は憲法及び法律に拘束される。そうすると,既に述べたとおり,憲法が一般的に国民の司法参加を許容しており,裁判員法が憲法に適合するようにこれを法制化したものである以上,裁判員法が規定する評決制度の下で,裁判官が時に自らの意見と異なる結論に従わざるを得ない場合があるとしても,それは憲法に適合する法律に拘束される結果であるから,同項違反との評価を受ける余地はない。元来,憲法76条3項は,裁判官の職権行使の独立性を保障することにより,他からの干渉や圧力を受けることなく,裁判が法に基づき公正中立に行われることを保障しようとするものであるが,裁判員制度の下においても,法令の解釈に係る判断や訴訟手続に関する判断を裁判官の権限にするなど,裁判官を裁判の基本的な担い手として,法に基づく公正中立な裁判の実現が図られており,こうした点からも,裁判員制度は,同項の趣旨に反するものではない。」

「このように,裁判員の職務等は,司法権の行使に対する国民の参加という点で参政権と同様の権限を国民に付与するものであり,これを「苦役」ということは必ずしも適切ではない。また,裁判員法16条は,国民の負担を過重にしないという観点から,裁判員となることを辞退できる者を類型的に規定し,さらに同条8号及び同号に基づく政令においては,個々人の事情を踏まえて,裁判員の職務等を行うことにより自己又は第三者に身体上,精神上又は経済上の重大な不利益が生ずると認めるに足りる相当な理由がある場合には辞退を認めるなど,辞退に関し柔軟な制度を設けている。加えて,出頭した裁判員又は裁判員候補者に対する旅費,日当等の支給により負担を軽減するための経済的措置が講じられている(11条,29条2項)。」

解説 本問は裁判員制度合憲判決である。百選登載判例であり、かつ、司法権は、統治のところでは貴重な判例形成のみられる分野であるから、重要判例は十分に習得すべきである。もっとも、本問では、同判決の判示項目を網羅的に尋ねており、その点では、本問についても①の解説が妥当する。

④ 第17問 マーク31 正答7(○○○) 正答率 35.8%

解説 本問は、定数訴訟という著名判例群を問いつつも、いわゆる「違憲判決の後始末」にかかわる論点を尋ねている。近年、学説・実務ともに注目の高い分野ではあるが、まだ基本書レベルで丁寧に言及する例が少なく、若干難しかったかもしれない。この論点については、定数訴訟の各判決を少数意見まで含めて丁寧に読み込むことのほか、長谷部恭男「投票価値の格差を理由とする選挙無効判決の帰結」法教380 号(2012 年)38 頁以下などが参考になる。

このような近年話題の論点については、論ジュリ、法セミ、法時、法教などを読んでいる学生とそうでない学生とで差がつくように思われる。このレベルまで追いかけるのは、憲法以外の科目もあることを考えると、容易ではない。他方で、この手の問題を捨て問にするのであれば、基本書、判例レベルについては、完璧に近い学習が求められることになろう。