2015年度番外編 民法
配点表
設問1
小問1 MのAに対する母屋の明渡し請求の可否(合計25点)
1-1 法的根拠(訴訟物)
使用貸借権に基づく母屋の明渡請求権 1個 5点・・・・①
1-2 法的根拠が成り立つ理由(上記訴訟物を選択した理由)
1-2-1 共有持分権に基づいて明渡請求をしても、Aも共有者の一人であり、249条よればAも自己の持分権に基づいて共有物全体を利用する権限を有することから、占有権原の抗弁が主張されることになり、Mの明渡請求権は認められない結果となることが理解できているか。10点・・・・②
1-2-2 使用貸借契約の成立をどのように基礎づけるか 10点・・・・③
Mは亡Kの妻であり、母屋についてKの占有補助者であることから、最判平成8・12・17民集50巻10号2778頁によって、始期(相続開始時)付き終期(遺産分割時)付きの使用貸借契約を認められることが指摘できているか。
小問2 (合計35点)
2-1 訴訟物 共有持分権にもとづく母屋の明渡請求権 5点・・・・・④
2-2 Cからの反論とその評価
占有権原の抗弁 249条 10点・・・・・・・・・・・・・・・⑤
*共有物の持分の価格が過半数をこえる者(多数持分権者)であっても、共有物を単独で占有する他の共有者に対し、当然には、その占有する共有物の明渡しを請求することができない理由がのべられているか。
2-3 Bの下線部の主張について
2-3-1 *BCが母屋の利用方法について変更し、「母屋をCに設計事務所として利用させる」と決定したことの法的意味について論じられているか。10点・・⑥
252条に基づく共有物の利用方法の決定なのか
251条に基づく共有物の現状を変更する行為なのか(被相続人の死亡前からAが居住していたわけではない点について言及せずに議論を展開している場合には減点)。
2-3-2 Bの言い分中の下線部分の攻撃防御方法の位置づけ,主張の当否
10点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・⑦
以下のいずれでもよい
(1)252条に基づく利用方法の決定
*6分の5の多数持分権者による決定によってCの単独利用を認めていること
*再抗弁として位置づけられること,その理由(252条と249条の関係について論じられているか)
(2)251条に基づく変更行為
*変更行為にあたるとする場合には、Cに単独利用を容認するためには、全員一致でなければならないので、有効な攻撃防御方法とならないことが言及されていること
設問2(合計30点)
3-1 訴訟物
共有持分権にもとづく持分移転登記抹消登記請求権 1個 5点・・⑧
3-2 上記の訴訟物を選択する理由 15点・・・・・・・・・・・・・⑨
*原告の共有持分権にもとづいて他の持分権者の持分移転登記について抹消登記請求権ができるのか。 249条構成、保存行為構成、不可分債権類推構成いずれでもよいが、不可分債権類推構成は難しいのではないか。
3-3 本問への当てはめ 10点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・⑩
*上記の構成にもとづいて、本件の場合について検討すること。
249条構成:持分移転登記が共有物に対する侵害になることを説明できているか。
保存行為構成:BがD名義の持分権移転登記を抹消することが、他の共有者ないし共有者全員の利益になること、ないしは、不利益とならないことが説明できているか。
4.裁量点
4-1 裁量点A 全体の論旨の展開・論理的な整合性 (10点・・⑪)
*全員について採点 A+は9~、Aは8、B+は7、Bは6、Cは5、D(不可)は0点
4-2裁量点B:そのほか加点できる事由があれば、考慮(10点の限度・・⑫)
*加点できる事由があるもののみ
5. 合計点 (満点100点+裁量点B・・⑬)
参考 相続財産の帰属
被相続人の相続開始時の財産であり、一般には「遺産」と同義であるが、民法典では「遺産」は分割の場合にもっぱら使われている。遺産分割の対象となるのは経済的価値のある積極財産だけであるから、その点では遺産分割の対象である遺産と積極財産(権利)だけでなく、一切の消極的財産(義務)を含む相続財産とは異なる。権利・義務として具体的に発生するにいたっていない財産上の法律関係ないし法的地位(ex.申し込みを受けた地位、善意者・悪意者の地位)も承継することに注意すること。
相続人が数人あるとき、遺産分割が行われるまでの相続財産は共有とされる(遺産共有 898条)。各相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する(899条)。遺言によって被相続人による相続分の指定がある場合(902条)、あるいは、被相続人によって第三者に指定を委託している場合には、これに従うことになるが、そのようなものはない場合には、法律の規定によって、各相続人が遺産の全体のうちどれだけの割合(900条。法定相続分、本来的相続分)を相続することになるかが定められている。本件では、母Mは2分の1、3人の子ABCは各6分の1となる。
1)不動産(土地甲乙丙および母屋)の帰属
土地甲乙丙および母屋の建物は、いずれも、上記の割合でMABCの共有となる。(共同)相続を原因として不動産を登記するときは、上記割合での共有登記をすることになる。
この(共同)相続登記は、戸籍により各相続人がそれぞれ取得する法定相続分を登記所に証明することによって相続人のだれであっても一人でできる。登記原因は「相続」、登記原因の日付は相続開始時となる。申請者は自分だけのために自己の持分取得のみを登記することはできない(不登59条4号参照)。単独申請で(共同)相続登記ができるのは(不登63条2項)、登記義務者である被相続人が死亡していること、上記登記申請が現状を維持し、また、共同相続人全員にとって利益があることから保存行為にあたると解されているからである。
しかし、この関係は遺産分割(協議ないし審判 907条)が行われるまでの間であり、法定相続分で相続登記した後に、遺産分割により、個々の不動産(遺産)の取得者が決定されたときには、「○年○月○日付遺産分割」を原因として、取得しなかった相続人の共有持分を、その取得者へ、共有持分移転登記することとなるから、登記義務者である取得者以外の相続人と登記権利者である取得者である相続人によって共同申請しなければならない(登記原因証明情報として遺産分割協議書、および、それぞれの印鑑(実印)と印鑑証明書が必要)。
共同相続登記をしても、遺産分割により当該不動産を取得した者は、他の持分権者の共有持分について移転登記を経由しなければならないことから、遺産分割前に共同相続登記を相続人自身が行うことは実務的には多くはない。被相続人の死亡によって相続人の共有になっているが、被相続人の名義になっている不動産について、相続人の債権者が、当該不動産に対して強制執行や担保執行を行う準備として、相続人に代位して共同相続登記をするような場合が多い(民事執行規則23条1号参照)。
なお、共同相続登記を経由しないまま遺産分割の協議が整い、当該不動産に対して相続人が単独所有ないし共有する場合には、遺産分割協議書を添付情報として相続人が単独申請することができる(不登63条2項)。これは、遺産分割の効果について遡及効が認められており相続開始の時点まで遡って遺産分割の効果が発生するから(909条)、被相続人から当該取得者に直接の権利移転があったものと解されるからである。この場合には、登記原因は「相続」ということになり、相続開始時が登記原因の日付となる。
したがって、登記原因が「相続」、相続人が共有している場合には、遺産分割前で遺産共有の状態にあり共同相続登記がなされているのか、遺産分割の結果、相続人の共有となっているのかは、登記からは識別できにくいことになる。
2)S銀行・U銀行への預金債権の帰属
ⅰ)最判昭和29・4・8民集8巻4号819頁によれば、相続人が数人ある場合において、相続財産中に可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解されている。
なぜ、分割債権となるのか。理論的には、相続財産を構成する債権についても898条により準共有となり、264条の特則である427条以下が適用されることになる。普通預金は、期限の定めのない当座性預金であり、個々の預入金が入金記帳された時点で、これを組み込んだ新たな1個の預金債権が成立するものと解さざるをえないことになるが、可分債権であり、このような普通預金債権の特色を考慮すると、相続分の割合に応じて当然に分割承継されるものと解される。なお、相続法には弁済をした債務者を保護するための規定がないが、相続財産を構成する債権に427条以下が適用されることから、債権の準占有者に対する弁済の規定を適用して、債務者を保護している
したがって、相続財産を構成している被相続人死亡前に発生した預金債権については、いずれも金銭債権であり可分債権であることから、相続分に応じて相続人に分割帰属することとなる。本問では、KはS銀行に1200万円とU銀行に3000万円の預金債権があるが、S銀行に対する預金債権(1200万円)については、妻600万円の預金債権が、子ABCについてはそれぞれ200万円の預金債権が帰属することになり、U銀行に対する預金債権(3000万円)については、妻1500万円の預金債権が、子ABCについてはそれぞれ500万円の預金債権が帰属することになる。
可分債権はこのように相続開始時点で共同相続人に分割帰属することから、本来遺産分割を観念する必要はないが、実務上は可分債権であっても、支払いがなされていない限り相続人全員の同意のもとに遺産分割の対象としていることが通例である。特に預貯金債権は他の財産によって発生するでこぼこを調整するために使われる(912条は遺産合有説の根拠条文の一つとなっているが、遺産共有説に立つ場合には、債権についても遺産分割の対象となる場合があり、その場合に適用されるのが912条の規定と説明することになる)。
なお、現金は当然には分割帰属しないというのが判例である。最判平成4・4・10判時1421号77頁によれば、相続人は、遺産分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払いを求めることはできない。金銭の所有権は、特段の事情がないかぎり、通常は占有者と一致するものと解されているが、相続により金銭が当然分割帰属すると解すると、遺産分割協議について不動産などの分割結果の不均衡を調整する方法がなくなってしまう。そこで、相続人相互間の問題には、「特段の事情」があるとして、金銭は共同相続人の共有と解すべきであると解されている。
ⅱ)ところで、S銀行の預金口座は、賃料の受け取りのために開設された口座であり、被相続人の死亡後もこの口座に賃料が振り込まれている。被相続人の死亡後の賃料債権の帰属について、どのような考え方にもとづいて、どのように相続人に帰属するのかが問題となる。
乙地については、亡父が花井土木に賃貸しており、亡父の死亡によって、賃貸人の地位を相続人全員が承継する。相続開始から遺産分割までの賃料は誰に帰属すると解すべきか。
民法第909条が、遺産分割の効力は相続開始の時に遡って効力を生ずると規定しているから、遺産分割協議により取得者が確定したときは、相続開始時からのその取得者が土地を所有してきたこととなる。元物の所有者に果実は帰属するから(89条、189条、190条参照)、従来、相続開始後、遺産分割までの間の賃料の帰属についても、遺産である不動産に準じる考え方も存在した。
しかし、最高裁平成17・9・8民集59巻7号1931頁は、「相続開始から遺産分割までの間に共同相続にかかる不動産から生ずる賃料債権は、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解し、その帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない」と判示した。
909条本文は、遺産分割の遡及効を規定しているが、各相続人が、遺産分割によって取得した財産を、相続開始の時に被相続人から直接承継したものとして取り扱うことによって、相続人を保護することを目的としている。ただ、相続開始後から遺産分割までの間、共同相続人が共有している状態は短期間とは限らない。それにもかかわらず、遺産分割の結果、被相続人の死亡時=相続開始時までさかのぼって、各相続人は遺産分割に定められたとおりに遺産を所有または共有していたとすると、取引の安全が害されることになる。このため、909条但書は、遺産分割の遡及効を制限している。
上記判決では、遺産に属する不動産は、相続開始後から遺産分割までの間は共同相続人の共有であり(898条)、その間に発生した賃料債権については、共同相続人に法定相続分の割合に従って分割帰属するという理解を前提にしている。
このような理解は、①民法909条は遺産分割と相続開始との間に間隙を発生させないための擬制であり、果実を遺産と同様に考えるべき必要はないこと、②遺産である賃貸不動産から生ずる賃料債権は遺産そのものではなく、遺産とは別個の財産であること、③賃料を生み出す遺産の取得者には相続時に存在した遺産以上のものを取得させる必要はないこと、④遺産分割によって不動産が相続開始の時点から、遺産相続した相続人に被相続人から取得したとする構成をとるとしても、遺産分割までの間、当該不動産が共同相続人の共有であるという事態を無視することができないこと(かりに、遺産分割によって、遺産を構成している不動産が共同相続人の一人の単独所有となって場合に、遺産分割までに発生した賃料が、上記相続人に帰属するとした場合に、賃借人の賃料の弁済、すでに遺産分割までの賃料を共同相続人間で費消してしまった後始末を想起せよ)などを理由とする。
遺産分割の効力をめぐっては、宣言主義(各相続人は直接被相続人から取得したことになり、遺産共有の存在は存在しなかったものとして取り扱うとする考え方)と移転主義(遺産は相続の開始によってまず共有状態に入り、分割によってはじめて各相続人の単独所有に移行するという考え方)の対立があるが、上記判決は、後者の考え方と整合的な理解といえる。
結局、上記判決によれば、本問では、被相続人の死亡後、遺産分割前の240万円の賃料についても、妻Mに120万円、子ABCについては、40万円ずつ帰属することになる。
*代償財産について共同相続人全員の合意があれば遺産分割の対象になるとしている (最判昭和54・2・22金判570号19頁)点に注意。
*債権が預金債権である場合には、判例によれば分割帰属するはずであるが、金融機関は払い戻しに応じない(相続人間の紛争に巻き込まれないため。また、後になって遺言等が出て来る可能性もあるから。)。
具体的には、払い戻しに際しては、戸籍から確認できる共同相続人全員による遺産分割協議書(全相続人の印鑑証明書を付して)の提出か、戸籍から確認できる共同相続人全員から印鑑証明書を付して書面(共同相続人の1人に対して払戻しをすることに同意し、かつ、以後第三者から何らかの権利主張がなされたときには、全員で責任をもって処理する旨の書面)の提出を求められる。このような書面によって、かりに金融機関が表見相続人に預金を弁済した場合にも、478条によって善意・無過失であるとして当該弁済の効力を主張・立証するための資料とすることになる。
*法定相続分とは異なる割合で債権を分割したり、共同相続人の1人だけに帰属させたりしたときには、これを債務者その他の第三者に対抗するためには、債権譲渡の対抗要件が必要である点に注意(最判昭和48.11.22金法708号31頁)。
3)U銀行に対する連帯保証債務
ⅰ)平成19年4月1日に、Kは、花井土木がU銀行から借り入れた借入金を含め、U銀行との間に、極度額5000万円、期間5年の根保証契約(連帯保証契約)を締結している。平成16 年11 月に、包括根保証を禁止する内容の民法改正が成立し、平成17 年4月1日から施行されている。平成16年改正によって、保証契約の成立に書面を要することになり(446条2項)、また、民法に新たな「貸金等根保証契約」との条項ができ、貸金等債務の根保証契約には、「極度額」および「確定期日」の定めをすることが必要となった(第465条の2以下)。保証人は、契約で定められた5年以内の期間(定めが無いときは3年間)に発生した債務に限定して責任を負うことになった。
また、根保証は、連帯保証人の死亡により確定し、これ以上の変動はしない(第465条の4第3号 従来の最判S37・11・9民集16巻11号2270頁を条文化したもの)。したがって、本件では、Kが死亡した平成23年7月7日に元本が確定することになり、Kが保証する金額は3000万円となる。その後、会社が借り増ししたとしても、その分については、MABCは負担しない。
ⅱ)借入金3000万円の保証債務については、当然に各相続人が分割して承継する(連帯債務について最判昭和34・6・19民集13巻6号757頁参照)。
判例は、①連帯債務は債権の確保・満足の点では相互に関連、結合しているが、なお可分であること、②可分債務が相続により複数の相続人に承継される場合には、法律上当然に分割され、各相続人は相続人に相続分に応じて承継されることから、連帯債務者の一人が死亡した場合にも相続人に分割承継し(分割承継された債務間の関係については不明)、他の本来の連帯債務者と相続人は分割された債務の範囲で連帯するものと解している。
しかし、判例の結論は、連帯債務者の死亡によって連帯債務の効力を弱めることから、学説上は反対する見解が多い。②の一般論を肯定するとしても、債務者の死亡という債権者の関与しない事情によって、債権者の利益が害されることから(債権が細分化され多数になり、債権取立等の手数が煩雑になること、相続人および各自の債務の負担割合の確知が困難であること、共同相続人中のある者が無資力である場合には債権回収が困難となることなど)、連帯債務はこれとは別に、各相続人は債権者に対する関係では、全部給付義務を負い、被相続人の負担部分が各相続人の相続分に応じて分担されると解すべきであるとする見解が主張されている。
上記の有力説によれば、確かに相続という偶然の事情により連帯保証人が追加されたのに等しい結果となり、債権者は保護されることになるが、その反面、共同相続人の中に無資力のものがあると、債権者に全額弁済した相続人は求償権を行使しても実効性がないなど、相続人が不利益を受ける可能性がある。判例は、細分化されるとしても相続人全員で被相続人が負担していた債務と同じ額を負担するということで足りると考えているものと思われる。
連帯債務に関する上記の最高裁判決に準じて考えると、Cについていえば、6分の1である500万円を負担することになり、この範囲で、主たる債務者である花井土木と連帯することになる。
なお、会社は返済を継続しているので、連帯保証債務は現実化していない(請求されるという事態は潜在的なものである)。相続税の計算においても、保証債務が現実化して初めて債務として考慮される。
銀行からすると、花井土木への貸付に必要な連帯保証人に欠員が生じていることになる。そこで、銀行実務では、通常、連帯保証人(根保証)を取り直しすることが一般的である。個人経営に等しい株式会社の借入については、実質的な経営者個人の連帯保証とその者が所有する不動産を担保に取ることが多い。その場合に、経営者が死亡したときには、相続人のうちで、会社の経営を承継し、かつ担保が設定されている不動産を相続で取得したものを連帯保証人(根保証)として取り直すことが多い。
2015年度番外編配点表 千葉担当分(11月26日)