【質問】信頼関係破壊の法理について

初めまして。

今回質問があり始めて投稿させていただきます。

未習者コース1年生ですので初歩的な質問となるとは思いますが、よろしくお願いします。

【質問】

信頼関係破壊の法理の説明につき、教科書では「賃貸借において」と書かれていました。

その例示として、不動産賃貸の事例と判例があり、判例の抜粋部分には、「賃貸借は」から書き出された文章がありました。

信頼関係破壊の法理は動産の賃貸借には適用されないのでしょうか。特別の信頼関係が認められれば動産でも適用されるのでしょうか。

討論の中では、不動産の賃貸借の額の大きさと、居住地の重要性に着目する意見も出たのですが、例えば、工場の経営者が、その仕事の中で最も重要な機材を賃貸しているとして、契約の中で資産の調査や保証金などがあり、賃貸借契約時と類似の手順をふんだと仮定してもこの法理は適用されないのでしょうか。

拙文ではありますが、どうぞよろしくお願いします。

 

「【質問】信頼関係破壊の法理について」への5件のフィードバック

  1. 弁護士の林です。
    内田貴先生の「民法Ⅱ債権各論」第3版の244頁以降に「信頼関係の法理の射程」いう名称のコラムがありますので、
    そちらをご参照のうえ、ご自身で検討してみてください。
    「特別の信頼関係が認められれば動産でも適用される」という点は、逆なのかなと思います。
    「ある契約関係が、当事者間の信頼関係に基づいているものかどうか」という観点で考えるほうがしっくりきます。

  2. こんにちは。佐藤です。
    おそらく質問者さんの考えている「信頼関係破壊の法理」は借地借家法が適用される賃貸借契約にしか適用されないという理解で整理してしまって問題無いと思います。
    実務的には,不動産賃貸であっても,例えば駐車場契約や高架下構造物については,借地借家法の適用がないことを前提に対応しています。借地借家法の適用が無ければ,そもそも債務不履行事由が無くても,期間内解約条項等に基づいて解約できるわけです。

    但し,当事者間の信頼関係に基礎をおく継続的契約を制限する法理という意味であれば,借地借家法が適用されない賃貸借契約でも当然問題になります。
    例えば,墓地の永代使用契約は,法律的には地上権を中核とした非典型契約という整理になりますが,解除にあたって当事者間の信頼関係が破壊されなければ債務不履行解除できないとした裁判例がありますし,実際にもよほど悪質な債務不履行がない限り,解除していません。
    賃貸借以外でも,賃貸借の要素を含む業務委託契約であるとか,継続的供給契約(例えば,大手メーカーと取引する零細下請企業が,大手メーカーの依頼で多額の設備投資のうえで当該メーカー専用の商品を開発し,毎月継続的に納入しており,その取引金額が当該下請企業の売上の多くを占めるようなケース)等で,一方的な解約権を制限したり,事前の予告義務(6か月~1年程度の予告期間を求めるもの)や投下資本等の損失補償を義務付けるものなど,多数あります。

    みなさんに身近なところでいくと,民法651条の委任契約の解除があります。
    通説的な理解では,民法651条は委任者は自由に解除できるのが原則ですが,同条は任意規定のため,判例上,受任者の利益をも目的とした委任契約の場合には同条による解除権を放棄したものと推定されるとされています。
    ただし,この取扱いは当事者の合理的意思解釈によるものなので,解除権を放棄したとまではいえない特段の事情があればなお解除できますし,解除権を放棄した場合であっても,委任契約が当事者間の信頼に基礎をおくものであることから,信頼関係が破壊されたような場合にやむを得ない事情があればなお解除が可能です(いずれも最高裁判例があるので確認しておいてください。)。

    私の経験では,賃貸借契約くずれの業務委託契約であるとか,継続的取引関係の解消の場面で,上記の委任契約の任意解除類似の場面であるとして,解約権の制限が問題になるケースが多いように思います。
    その際,上記の委任の理屈でいけば,契約書中に期間内解約条項を入れておけば,少なくとも解除権を放棄したとはいえない特段の事情があるとして解除できそうなものなのですが,実はここも争いがあり(関連する最高裁判例が2つあります。花王事件と資生堂事件で検索すれば見つかると思います。),期間内解約条項があっても,やむを得ない事情が無ければ解約できないとする立場も有力です。

    長々と書きましたが,要するに,受験生レベルで整理するところの「信頼関係破壊の法理」を書く取引は,基本的に借地借家法が適用される賃貸借契約だという理解で良いと思いますが,その余の契約についても,「信頼関係破壊の法理」よりは一段低い保護にはなるものの,一定の場合の継続的契約の解消を制限する法が適用されます。
    動産賃貸借の場合もそれと同じ範疇で考えれば良いと思います。
    その際には,当事者間の力関係や,契約締結に至った経緯,目的物の性質,当該賃貸借契約が解除されることによって被る賃借人の不利益と賃貸人の利益等を総合考慮して,個別具体的に考えれば足りると思います。

    空いた時間に考えを適当に書いただけで,文献等の根拠資料を引用していませんが,ご了承ください。

  3. 上の投稿の誤記等の修正です。

    (1)7行目
    「当事者間の信頼関係に基礎をおく継続的契約を制限する法理」は「当事者間の信頼関係に基礎をおく継続的契約の解除ないし解約を制限する法理」の誤りです。

    (2)16行目
    「多数あります」は「多数の裁判例があります」の誤りです。

    (3)23行目
    「信頼関係が破壊されたような場合にやむを得ない事」は「信頼関係が破壊されたようなやむを得ない事」の誤りです。

    (4)35行目
    「契約の解消を制限する法」は「契約の解消を制限する法理」の誤りです。

  4. 林先生、佐藤先生。
    お忙しい中、詳しいご説明ありがとうございます。
    先生方のご説明を拝読いたしまして、疑問点が解決いたしました。
    御礼申し上げます。

  5. ご質問の「動産賃貸借の解除に信頼関係破壊の法理の適用があるか?」は,鋭く,かつ正直,回答が難しい質問です。

    既に,弁護士アドバイザーの先生方からの回答もあり,質問者の返信もされていますので,時期遅れとなっており,質問者にご覧いただけるか心許なく,また内容も確信はないのですが,ご参考までに私の私見もに追加でコメントしておきます。

    【結論】私見ですが,理論的には,動産賃貸借の解除にも信頼関係破壊の法理の適用は,排斥されない。しかしながら,実際には,動産賃貸借の解除に,この法理を適用して解除できないとされる事案は,限られるのではないかという考えです。
    また,佐藤先生のコメントは,詳細かつ示唆に富むものですので,よく理解いただければと思います。

    【検討】
    1.まず,この問題を考えるには,不動産賃貸借解除の事案で,次のことを理解しておく必要があると思います。
    ①この法理が存在せず,原則どおりであればどうなるか
    ②この法理は,原則をどのように修正する法理なのか
    ③この法理の根拠は何か
    ④この法理の判断基準はどのようなものか。また,要素となる事情はどのような事情か。
    ⑤どのような背景事情と経緯から認められてきた法理なのか
    ⑥この法理は,全ての解除理由(賃料不払,無断転貸借,用法遵守義務違反などなど)について適用されるのか。
    ⑦「信頼関係破壊」の主張は,誰がするのか。賃貸人側であれば,解除を主張する際に,通常の解除の要件に加えて,「信頼関係も破壊されている。」ことを付け加えることになります。他方,賃借人側であれば,賃貸人が通常の解除の要件を主張してきたことに対して,賃借人が「この程度のことでは信頼関係は破壊されていない。」と反論(抗弁)することになります。

    2.さて,問題の動産賃貸借の解除に信頼関係破壊の法理の適用があるかですが,教科書には,あまり明確に書かれていないように思いますよね?
    どうも不動産賃貸借の解除を念頭に書いているようなのだが,その書きぶりは「賃貸借契約は・・・」と,不動産賃貸借に限定した記述となっていない。

    また,判例,裁判例として皆さんが目にする範囲では,その全てが不動産に関する事案であり,動産に関する事案は見つからないと思います。

    ヒントとなる文献は,林先生のコメントにあります内田先生の教科書があります。
    また,今,手元にないので,不正確となりすいませんが,潮見佳男先生の「基本講義債権各論1」(新世社)の該当箇所で「賃貸借の対象」(というような表現だったと思います。)が信頼関係破壊の判断基準としてあげられていたように思います。どのような意味を込めてのことかは分かりませんが,「対象」という言葉からは,動産も排除していないように読み取れます(排除するのであれば,どこかで明確に「不動産」と書くのではないかと思います。)。
    もう少し直接的な記載としては,民法改正の端緒となった民法(債権法)改正検討委員会が出している「詳解債権法改正の基本方針Ⅳ 各種の契約(1)」の290頁に,次のような文章があります。
    「判例において,現民法612条2項の適用が制限される場合として取り上げられてきた事案の多くは,不動産に関するものであるが,動産の場合に,常に,・・・適用がないとして,一律に処理することが適切であるかについては,なお検討の余地が残されている。従来の判例においても,信頼関係破壊の法理による解除権の制限は,転貸借によっても実質的に当事者が変わっていない事例など,比較的限定して認められてきたのであり,そのことをふまえて上で,動産賃貸借についても適用可能性を完全には排除すべきではないものと考えられる。この点については,当該賃貸借の性質や種類,内容に照らして判断が求められることになる。」

    この文章から窺えるのは,実際に信頼関係破壊の法理が適用されるのは不動産賃貸借で有り,しかも限定的に適用されている。しかし,理論的には,動産賃貸借の解除への適用を排除する理由もないということだと読んだのですが,いかがでしょうか?

    一番始めに出発点ですよと提示した各問題についての,回答に照らし合わせてみてください。不動産に限定しなければならない理論的根拠はありましたでしょうか?おそらく「生活の本拠として不動産の重要性」を強調し,前面に押し出さなければ,その他の回答は重要な動産賃貸借にも該当するように思います。

    他方,やはり不動産賃貸借と動産賃貸借は,保護の在り方や考慮要素が異なる。不動産は生活の本拠であり,当該人の人格形成や社会生活と密接に関連し,人格権にも等しいと考えるのであれば,動産賃貸借の解除には信頼関係破壊の法理は適用がないと考えてもおかしくはないと思います。

    3.補足
    佐藤先生のコメントにも的確に指摘されていますが,継続的契約(継続的供給契約などの継続的売買契約が典型的です。)については,その終了(解除)にあたっては,信義則上の制限がある(継続的契約の解除の要件)と考えられていますし,裁判例も指摘があったとおりです。

    私は,とても重要な指摘だと思います。

    どういったケースで,なぜこのような制限が必要となるのかを結論ではなく,その思考過程を盗んでください。

    なお,内田先生の教科書のコメントでは,信頼関係破壊の法理とこの継続的契約解除の制限法理の関係について,一緒の法理であり単に射程の問題なのか,根拠や判断要素が異なる違う法理なのか,今ひとつ明確ではないように思います。
    感覚的ですいませんが,両者は出発点が違う法理なのではないかという気がしています。

    いろいろな意見がある難しい問題だと思いますが,信頼関係破壊の法理の根拠と背景をどう考えているのかに照らして,矛盾や齟齬がなければ,肯定説・否定説いずれも理論的には成り立つのではないでしょうか。

    よろしくお願いします。

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