初めてオルサを利用させていただきます。次期3年次生です。
平成26年度の司法試験商法では、一旦取締役会に参加したものの、他の取締役Dの動議に反発し、取締役会を途中退席してしまう取締役Cが登場します(問題文中の事実7)。
この問題を通して以下2点の疑問が浮かんだので、質問いたします。
① このように取締役会を途中退席した取締役でも一旦出席したことは間違いないので、当該取締役は欠席したと扱われるのではなく、「出席した(定足数を満たしているかのカウントに含まれる)が賛成しなかった」と扱われるということでよいのでしょうか?
② また、もし①が出席したものと扱われるのなら、取締役が途中退席したその後に新たに議案が提出された場合、当該中途退席取締役はその議案の内容を知ることができませんが、その議案との関係でも出席したものとして扱われるのでしょうか? それとも、退席以後に初めて提出された議案との関係では、欠席と扱われるのでしょうか?
お忙しいところ恐縮ですが、理解が不十分な箇所のため、ご教授いただければ幸いです。
ふわっと流しているとそんなものかなで終わるのですが,気になると「実際にはどう扱っているのだろう?」と気になるところですね。
少々前提が長くなりますがお付き合いください。
取締役会は全ての取締役で組織され,取締役会設置会社の業務執行の決定,取締役の職務の執行の監督,代表取締役の選定及び解職の職務を行う機関(会社法362条1項)とされています。
で,これらの職務を行うにあたっての運営は,取締役会は会議体として議論・相互牽制を前提とした「決議」(会社法369条)により行われます。
取締役会の招集通知のイメージは,招集権者(一般的には,代表取締役です。)が,開催日時,開催場所及び議題を記載した招集通知を各取締役及び各監査役に送付するのですが,議題は次のような感じで記載されています(議案までは記載されていないことが多いと思います。「議題」と「議案」の違いはいいですよね?)。
第1号議題 ○○工場の機械増設に関する設備投資の件
第2号議題 代表取締役の選任の件
第3号議題 執行役員人事の件
(ネットなどでは,この「議題」が「議案」と記載されている例も多いと思います。議題と議案を混同しているのですが,実際には,そこまで目くじらは立てられていないのですが,我々としては注意しておかないといけないところです。)
議案(議題に対する具体的な提案内容)は,取締役会の当日,代表取締役または担当取締役から資料と共に説明がなされます。
取締役会では,このようにして議題となった事項について,一つずつ「決議」をしていくことになります。
さて,ここまで来ればお分かりになるかと思いますが,会社法369条の「決議」は,それぞれの「議題」に対してなされるものですから,定足数も決議要件も,議題ごとに必要となります。この点について,裁判例も,取締役会の定足数は,討議及び決議の全過程を通じて維持されるべきであり,開会時に充足されただけでは足りないとしています(最判昭41年8月26日民集20巻6号1289頁)。
ご質問についてですが,取締役会という会議の開催時間全体で判断するのではなく,個別の議題ごとに判断することになりますので,①のご質問は,退席した以降の議題については,欠席となり,定足数に算入しないことになります。すなわち,「欠席」です。②のご質問についても,同様に,退席した以降の議題は全て「欠席」として扱われます。
以下は,実務的な話しとなりますが,中途出席者,中途退席者があったときは,取締役会議事録に,当該中途出席者,中途退席者の氏名および出退席の時刻,出退席の際どの議題がどのような審議段階(討議中あるいは表決のどの段階か)であったかを記載するのが一般的です。
また,もし中途出席・中途退席した取締役について,議事録にその不在中に行われた審議(討議・議決)の際にも,出席していたように記載されると,当取締役は自己の参加していない議決について賛成したものとみなされ,取締役としての責任を負わされるおそれがあります。このように,中途出席・中途退席した取締役の立場からも,中途出席・中途退席の状況は議事録に正確に記載する必要があることになります。
具体的には,取締役会の議事録には,次のように記載します。
(1)途中出席の場合
「取締役○○○○は,午前○○時○○分,決議事項第3号議案から出席した。」
(2)途中退席の場合
「取締役○○○○は,午前○○時○○分,決議事項第3号議案の決議が終了した時点で退席した。」
いかがでしょうか?
(追記)
上記で「議題」と「議案」という用語が出て来ましたが,会社法では,この2つは使い分けられていますよね。「議題」と「議案」は似ているようで違うもので,”議題”について”議案”を出すという関係にあります。「代表取締役の選任の件」は”議題”で,「Aを代表取締役に選任することを提案する。」が”議案”になります。株主総会で,株主が議題又は議案を提出することができる要件や手続が異なっていますので,あわせて整理して理解しておかれるとよいと思います。
川上先生の詳細な解説に付け加えることは何もありませんが、平成26年司法試験商法の問題についての取扱いとしては、「Cは,この提案に反発して直ちに退席し」とありますから、そもそも取締役会決議には加わらなかったという扱いになりますね。取締役会議事録には、当初出席していたが途中で退席した旨を記載することになるでしょう。
林です。川上先生のご回答のとおりですが、念のため会社法369条5項を確認しておかれるとよいと思います。関連して、393条4項、399条の10第5項、412条5項も確認しておいてください。なお、推定されるのは「決議に賛成したこと」だけであり、任務懈怠が直接推定されるわけではありませんが、これについては423条3項を確認してみてください。
川上先生
詳細なご回答をありがとうございます。討議と議決の全過程に参加している者のみが定足数に算入される「出席者」となり、これは議題ごとにカウントされるのですね。今まで誤解していました。おかげさまで、今後同種の事案に当たった際には、対応できそうです。
杉井先生
私の挙げた事案における当てはめを補足してくださり、ありがとうございます。理解が深まりました。
林先生
関連条文を挙げてくださり、ありがとうございます。確認しておきます。