はじめまして。
先生方に表題の通り質問があります。
【質問】
以下の事案で、CはFに対して免責を受けたことを主張して、Fの請求を拒むことができるのでしょうか?
【事案】(平成25年度予備試験論文民法参照)
G・S 将来債権譲渡担保契約設定(返済が滞るまではSに取立権限あるが、滞ると取立権限を喪失する旨約定)
S→C α債権発生
S・D α債権につき免責的債務引受契約締結(Cの承諾なし)
S Gへの弁済遅滞
F→C α債権差押え(FはSの債権者)、Cに対してα債権の支払いを求める
お忙しい中大変恐縮ですが、ご回答よろしくお願いします。
弁護士の林です。
簡単なもので結構ですので、まず、ご自身の検討結果をご投稿いただいたほうがよろしいかと思いますが、いかがでしょうか。
私見を書かずに失礼しました。
以下、検討してみた結果です。
1.構成
(1)対抗肯定説
第三債務者(免除を受けた者)は、債権者(免除した者)に対してするのと同じ主張が第三債権者(差押人)に対してできる結果、免除の効力を主張(対抗)できるとする見解
(2)対抗否定説
ア.利益衡量(公示されない契約で契約外の第三者の期待が害されるのは妥当でないし、契約三者間で処理させても不測の損害が発生しないことの考慮)により、三者間で不当利得返還請求により処理させる見解
イ.契約の相対効(「契約は他人を害さない」)を理由に、対抗を否定する見解
ウ.譲渡禁止特約が差押・転付命令に劣後すること(潮見「プラクティス債権総論」480頁)と同様に、執行妨害を排除する必要から、対抗力を否定する見解
エ.免責的債務引受の二面間契約の場合に債権者の承諾が必要とされている趣旨(潮見「法律学の森債権総論」684頁)から、第三債権者にも対抗できないとする見解
2.検討
まず、肯定説は結論として妥当でないと考えます。理由は、仮に引受人が無資力であれば、第三債権者の債権の満足を害する結果となるからです。
そして、否定説ですが、見解としてアからエまでを記載しましたが、これは思いついた時期が異なるために分けているだけで、どの理由づけも相互に排斥しあうものではないと考えます。つまり、形式的な理由づけとして、契約の相対効(上記イの見解)と免責的債務引受契約に債権者の合意が必要とされていることとの整合性(上記エの見解)がいえ、実質的な理由づけとして、執行妨害の排除の必要性(上記ウの見解)と免責的債務引受契約の当事者間での合理的な処理ができること(上記アの見解)がいえると考えます。
3.結論
以上より、私見としては、免責的債務引受の効力を差押債権者に対抗することはできないものと考えます。
どうでしょうか?
平成25年度予備試験論文民法の[設問1]の(2)の問題ですよね。
検討の順序はあるかと思いますが,本問では,次のような問題点があるかと思います。
⑴ 集合将来債権譲渡担保の設定者である原債権者Sに,原債務者Cに対するα債権を消滅(免責)させる権限はあるのか。これは,①形式的には債権譲渡であり,既に原債権者Sにα債権は帰属していないのではないか(取立権限だけ授与されている。),②担保設定者として担保保存義務的な注意義務はないのか,2つの問題があるように思います。
⑵ 原債権者Sと引受人Dとの間で,原債務者Cの承諾なく,免責的債務引受を行うことができるのか。
⑶ 免責的債務引受が有効だとして,免責された当該債務は,いつ消滅するのか。それを原債務者Cは差押債権者Fに主張することができるのか。
ご質問は,「CはFに対して免責を受けたことを主張して,Fの請求を拒むことができるのでしょうか?」ですから,⑴と⑵はクリアしたことを前提として,⑶に焦点を絞らせていただきます。
結論からいいますと,私見は,「Cは,Fに,免責を受けたことを主張し,Fの請求を拒むことができる。」です。
まず,そもそもこの問題は,本当に対抗問題や主張制限の問題でしょうか?
ネット上では,対抗問題(”的”な扱いを含んでですが。)として処理しているものが散見されますよね。
おそらくですが,これは,指摘されていますように,価値判断として「差押債権者Fからすれば,αが免責的債務引受で消滅しているかは不明であり,引受人Dの無資力の危険を差押債権者Fが負担するのはいかがなものか。」
その理論的な背景としては,債権譲渡の裏返し的な発想にあるのではないかと思います。
しかし,
①原債務者Cにとっては,免責的債務引受は,α債権が消滅している根拠,債権消滅原因ですから,同じく債権の消滅原因である弁済と同じではないか?
②債権譲渡では,譲渡人から譲受人に債権の同一性を失うことなく,対象債権が移転しますが,債務引受では同一の債務が移転するとは考えておらず,別のSD間のβ債権の発生原因である。これにより,併存的債務引受では,α債権とβ債権が併存する。免責債務引受では,β債権の発生とα債権の消滅を約する無名契約,β債権の発生とα債権の免除の意思表示と,説明の仕方はいろいろありますが,α債権とβ債権は,別の債権と捉えられている。すなわち,債務引受は,債権譲渡の裏返しではない。
③価値判断としても,差押債権者Fが行使しているのは,あくまでSのCに対するα債権であり,それが既に弁済により消滅している可能性は常にありうる。もともと執行が空振りの終わるリスクは差押債権者のリスクである。原債権者Sの債権者Fは,Sの一般財産を引き当てにしているだけであり,特定のα債権を引き当てにしているわけではない。したがって,一般債権者であるFには,特定のα債権に対する法的利益はないと考えることができます。
理論的には,対抗問題とは,ザックと言えば,「同一の権利の帰属について相争う関係」と理解されているのではないでしょうか?すなわち,一つの権利について,矛盾する法的地位が競合する場合とイメージできます。これと異なりますが,第三者の法的利益との調整として,自己の権利を保護してもらうための資格という意味での権利保護資格要件もあります。
本問では,差押債権者Fと原債務者Cは,α債権の帰属を相争う関係,矛盾する法的地位となるのでしょうか?
帰属は,どう見たって原債権者Sであり,差押債権者Fはα債権が存在する,原債務者Cは確かに存在したが消滅したと主張しているわけであり矛盾もないと思います。したがって,対抗問題とは考えられないと思います。
権利保護資格要件としても,一般債権者である差押債権者Fは,想定したα債権の差押えが,消滅していて空振りに終わった。もともと差押債権者Fに,原債権者Sの財産処分に干渉する権限はない(債権者取消権を除く。)以上,有効な免責的債務引受を受けた原債務者Cに権利資格保護要件を要求するだけの強固な法的利益はないと思います。
したがって,いずれの意味からも,対抗(主張)を否定する理由はないと思います。
投稿された「対抗否定説」の論拠については,
ア 一般債権者である差押債権者Fについては,そもそも特定のα債権の存在についての期待は法的保護に値する期待ではない。一般財産への掴取力があるだけであり,特定の権利に対する期待はない。仮に,このような期待が保護に値するとすれば,弁済についても,同様に,原債務者Cは主張できなくなるのではないか。しかし,弁済については,このような見解はない。
イ 契約による債権消滅であり,義務的な弁済による債権消滅ではない,契約は相対的だという点も,では代物弁済(これも契約ですよね。)で消滅した場合は,どうですか? 代物弁済を差押債権者Fに対抗(主張)できず,原債務者Cは,二重払いに応じざるを得ず,弁済後,原債権者Sに不当利得返還(SC間では,契約の相対性で有効とも思われますので。)をせざるを得ませんが,原債務者Cにとっては,原債権者Sに債権者Fがいるかどうかは不明(CがSに照会してもSに回答する義務はなく,またSに利害関係がある以上,その回答が真実であるとの保証もない。)であり,債権者Fの動向に左右されるというのは,法的安定性を著しく害するのではないでしょうか。
以上のとおりですが,もう少し考えてみます。
当該免責的債務引受により,α債権はどうなるのでしょうか。教科書などでは,あまり明確に書かれていないのではないかと思います。参考になるのは,民法改正論議の端緒となった「債権法改正の基本方針」のなかで,「現行法下の学説では,上記の債権者の承諾があったときは,債務者と引受人との間の合意の時点に遡及して免責債務引受の効果が発生すると解することで,ほぼ一致している。」との指摘です(ただし,改正法では,これと異なり遡及効を認める見解を採用せず,承諾時に効果発生と理解されていますので,注意してください。)。すなわち,現行法の解釈では,原債権者Sと引受人Dが免責的債務引受の合意した時点で,その効果が生じ,α債権は消滅していることになります。
このことは,「免責的債務引受が債権譲渡に先行して行われた場合には,免責的債務引受が行われた時点で,原債権者Aの原債務者Bに対する債権は実体的に消滅(移転)することになるから,そもそも免責的債務引受の後にAがBに対する債権を Dに譲渡することはできないものと考えられる」(金融法委員会 H23.11.15債権法改正に対する論点整理)との説明が分かり易いかと思います。
さらに,今般の民法改正でも,審議会では債務引受の対抗力という議論はなかったと思います。確かに,債務引受と両立しない第三者との関係を規律する規範が必要ではないか,債務引受・契約上の地位の移転の対抗要件も考えられるのではないかとの議論があるのも事実です。しかし,結局,改正法案でもそのような制度は設けられていません。
したがって,現行法下では,免責債務引受を債権者Fに主張するのに,原債務者Cに, 対抗要件的なものは不要と思います。
岡口先生の要件事実マニュアルでも,「免責債務引受の抗弁」のところで,①免責的債務引受の合意,(②①について債権者の承諾)とされているだけです。その後に,再抗弁として対抗要件(又は,資格保護要件)の欠缺はありません。
やはり,免責債務引受によるα債権の消滅の主張に,何らかの通知・承諾などの対抗要件(権利保護資格要件)が必要と考えられてはいないことの現れだと思います。
以下,蛇足です。
⑴ [設問1]の(1)との整合性にも注意する必要があります。
これは,原債権者Sの処分権限の有無と関係します。債権者Bが,当初の担保権設定時点でα債権を取得しているとすれば,そもそも原債権者Sは,それを消滅させる免責的債務引受を行う権原がありません。譲渡担保実行時点で移転すると考えて,初めてその先の問題が生じます。
⑵ 本問のようなケースでは,実際には,差押命令申立に関して第三者債務者の陳述催告 の申立がなされ,第三債務者である原債務者Cへ陳述催告がなされます。
原債務者Cは,「免責的債務引受により免責を受け債務なし。」と回答するはずです。
この時点で,Cへは空振りなので,Dに対する債権の差押えを検討することになりま す。それでも,あえて債権者Fが原債務者Cに請求をする場合,取立訴訟を提起し,当該訴訟で,Cはα債権の消滅を主張することになります。
⑶ 最後に,投稿が「CはFに対して免責を受けたことを主張」でしたので,免責的債務引受のみを考えてみましたが,それ以外にもα債権は,免責的債務引受の成立前に,既に将来集合債権譲渡担保として債権者Bに譲渡されています。これは形式上,債権譲渡ですから,その当否と結論は別として,債権譲渡と差押えの優劣の観点からの主張を組み立てられないかも,考えておく必要があるかもしれません。
⑷ 現在,法案提出されている民法改正案では,第472条(免責的債務引受の要件及び効果)として,次のような条文が提案されています。
1.免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し,債務者は自己の債務を免れる。
2.免責的債務引受は,債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において,免責的債務引受は,債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に,その効力を生ずる。
3.免責的債務引受は,債務者と引受人となる者が契約し,債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。
長文となりましたが,いかがでしょうか?
教科書類には書かれていないことと思いますので,他の先生方からのご見解もいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
弁護士の林です。時機に後れた返信で申し訳ございません。
川上先生の後に書くのは勇気が必要ですが、時機に後れたことの罰として書きます。
私も免責的債務引受による拒絶を認めてよいと思います。
川上先生の分類に従い検討すると、(1)①は取立権限が付与されている以上、実行通知がなされるまでは、誰から取り立てるかの権限も与えられているように思います(債権者としては、原債務者が無資力の場合、引受人から回収すべきではないでしょうか)。仮に、原債務者に資力があり、引受人に資力がなければ、担保価値維持義務違反の問題ととらえればよいと思います((1)②)。
また、この問題では、譲渡担保権者は、債務者対抗要件(及び第三者対抗要件)を備えていないことにも留意すべきと思います(要するに、譲渡担保権設定者にも、第三債務者にも文句は言えないということです)。
(2)については、債権者と引受人との契約で免責的債務引受がなされることは特に問題がないものと思われます(大判大10.5.9)。
なお、(3)について、免責的債務引受は、一般的には、債務が同一性を失わずに引受がされた当時の状態で引受人に移転するものと考えられていると思いますので、この点だけは川上先生のお考えとは異なります。
そもそもの疑問として、差押えは、差押命令が第三債務者に送達されたときに生じますので、それより前に有効に免責的債務引受がなされていれば、差押えが空振りしただけではないでしょうか(差押債権者は特定の債権に対する法的利益はあるのでしょうか)。
質問をした者です。
返信が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
川上先生、林先生、ご返答ありがとうございました。
お二方のご指摘により、免責の効力を差押者に対して主張できるという結論を理解することができました。
私の見解は、原債権者の一般債権者が、差押えの前から、原債権者の特定の財産(債権)に対してあたかも法的利益を有していることを前提にしてしまっている点に理論的な問題がありました。また、私が想定した原債権者及び引受人が無資力の事例ならば、詐害行為取消(民法424条)によって解決を図ることが考えられるので、結論の不当性があるとは言えないという考え方が抜けていました。
ご返答をいただいたおかげで、私見には理論と結論の両方に甘さがあるということに気づくことができました。
教科書にあまり書かれていない内容の質問にも関わらず、ご丁寧な返信をいただき本当にありがとうございました。とても勉強になりました。